今回は、発達障害のお子さんへの支援に関わるすべての方にぜひ手に取っていただきたい一冊をご紹介します。
『発達障害の子どもに伝わることば』(SB新書)は、言語聴覚士・公認心理士である川崎聡大先生による、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)などの発達障害をもつ子どもたちに、どのような「ことば」が伝わりやすいのかを、実践的に、かつ丁寧に解説した本です。
本書の冒頭で川崎先生は、「ことばは、伝わらないと意味がない」と明言しています。私たち支援者や保護者がどんなに子どもを思って言葉をかけても、それが子どもにとって“届いていない”としたら、その努力は空回りになってしまいます。
では、どうしたら伝わるのでしょうか? そのヒントが、本書には詰まっています。
本書が強調しているのは、まず子どもをよく観察すること。どんなことがわかっていて、どんなことがわかりにくいのか。日々の生活のなかから、子ども自身の理解の枠組みを丁寧に探っていくことが第一歩だと述べられています。
そのうえで、子どもの特性に合わせた声かけや支援を行う。ASDやADHDの特性についても、難解にならず非常にわかりやすくまとめられており、支援初心者の方にとってもスッと入ってくる内容になっています。
特に印象的だったのが、ADHD児の「実行機能」「注意」についての解説です。私の知る限りではこれほど分かりやすく解説されている本は他にありません。ADHDの子どもがなぜ注意がそれるのか、なぜ言われたことをすぐ忘れてしまうのか——その背景について、本書では噛み砕いて説明されています。
本編の合間には、さまざまな支援者によるコラムも収録されています。ざっくばらんな、現場の“リアルな声”が垣間見えます。また、川崎先生ご自身の臨床体験も随所に紹介されており、「あるある」と共感する内容もあれば、ハッとさせられる視点も多く、支援者として身が引き締まる思いです。
支援経験の少ない方にとっては「まず何から始めればいいか」の手引きに支援経験豊富な方にとっては「自分の支援を振り返るヒント」になるかと思います。どの層にも響く、懐の深い一冊です。
子どもたちにとって「わかる」「伝わる」ことばを一緒に考える機会として、ぜひ読んでみてください。