スギ花粉症について

来週より、スギ花粉の本格的な飛散が始まります。今年の花粉の飛散量は例年より少ないものの、昨年よりは少し多いと予測されています。

 

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今日は、毎年多くの人を悩ます、スギ花粉症について解説させていただきます。

スギ花粉症は増加傾向で、耳鼻咽喉科医を対象とした調査によると、1998年から2008年の10年間で、5~9歳で7.2%から13.7%, 10~19歳で16.7%から31.1%に変化しています1)。増加の原因としては、戦後に植林されたスギにより産生される花粉量の増加や大気汚染などが考えられています。

花粉症の症状は、くしゃみ, 鼻汁, 鼻閉 (鼻づまり) が3大症状です。掻痒感により、鼻をこすり、鼻出血をきたすことがあります。また、鼻閉のため口呼吸となり、日中の口渇感や夜間のいびき・睡眠不足の原因となります。その他、花粉の付着した場所によって、眼のかゆみ, 喉のかゆみ, 咳嗽, 皮膚のかゆみなどをみとめることがあります。これらの症状が強いと学習への影響が心配されます。実際に海外で花粉症の症状がテストの点数に影響したという報告2)もあり、症状の程度に応じた対応をする必要があります。 

 

 小児科的な治療としては、生活指導, 薬物療法, 免疫療法があげられます。生活指導では、抗原 (スギ花粉) の回避が重要です。具体的には、スギ花粉の飛散量の多い日は外出を避ける, 外出時にはマスクやメガネを着用する, 洗濯物や布団を外に干さないなどです。

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(鳥居より提供)

薬物療法としては、内服薬としては2世代の抗ヒスタミンロイコトリエン受容体拮抗薬 (オノンR, シングレアR, キプレスR) が中心となります。2世代の抗ヒスタミン薬は、くしゃみ, 鼻汁, ロイコトリエン受容体拮抗薬は鼻閉に効果があります

 

2世代抗ヒスタミン薬は中枢への移行が少なく、眠気や作業効率の低下を起こしにくいとされています。

★第2世代抗ヒスタミン

セチリジン (ジルテック), レボセチリジン (ザイザル), フェキソフェナジン (アレグラ), オロパタジン (アレロック ), ビラスチン (ビラノア), べポタスチン (タリオン), エビナスチン (アレジオン), デスロラタジン (デザレックス), ロラタジン (クラリチン), ルパタジン (ルパフィン) など

使い分けは、

運転する方は:フェキソフェナジン、ロラタジン、デスロラタジン、ビラスチン

妊娠中の方:ロラタジン, セチリジン 

授乳中の方:基本的に第2世代であれば問題ないが、成育医療センターのHP

授乳中に安全に使用できると考えられる薬 - 薬効順 - | 国立成育医療研究センター

では、フェキソフェナジン、ロラタジン、デスロラタジン

後は、適応年齢や服用回数 (1回or2回), 好きな剤型 (錠剤, OD錠, 粉, シロップ)

で使い分けています。 ※シロップはザイザルシロップのみ

 

点鼻薬としては、鼻噴霧用ステロイド (アラミストR, ナゾネックスR, 小児用フルナーゼR) が中心となります。強力な抗炎症作用により、鼻炎の症状を速やかに改善させます。さらに、いずれの薬剤も血中への移行は1%以下と低く安全に使用できます。点鼻用血管収縮薬 (プリビナRなど) は鼻閉を改善させますが、連用による薬物性鼻炎や過量投与による発汗, 徐脈や昏睡など副作用の危険があるため1週間以下の使用にすべきです。

 

薬物療法が症状を抑えるための治療 (悪い言い方をすればその場をしのぐ治療) であるに対して、免疫療法は治癒を期待できる治療法で、皮下注射と舌下投与の2つの方法があります。皮下注射法は以前より行われていましたが、頻回の通院 (初期は週1回, その後は月1回)を要し、疼痛や頻度はまれですが重篤アナフィラキシーのリスクがあることより、実施できる施設は限られていました。それに対して、2014年よりアレルゲンを含む製剤を舌の下に保持して飲み込む、舌下免疫療法が一般診療として開始されました(5歳以上から実施可能です)。この方法は疼痛がなく、副作用も口腔内や耳のかゆみなど軽微であり、自宅で実施できるという利点があります。ただし、毎日の投与が必要で、服薬忘れがないよう自己管理が必要です。皮下・舌下いずれの治療も少なくとも3年間 (できれば4年以上)は根気強く続ける必要があります。)当院で行っているのは舌下免疫療法のみです。 

舌下免疫療法関連の過去の記事

 

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 小児の場合、症状があっても自覚していない場合や訴えずに我慢していることがしばしばあります。鼻症状がひどく、口呼吸や眠そうにしている児がいたら、学習への影響が出る前に、医療機関の受診をご検討ください。

 

参考文献

1.中江公裕, 他. アレルギー性鼻炎の全国調査-1998年と2008年調査との比較. Prog Med 009; 29: 283-9.

2.Walker S, et al. Seasonal allergic rhinitis is associated with a detrimental effect on examination performance in United Kingdom teenagers: case-control study. J Allergy Clin Immunol 2007; 120: 381-7.