5~11歳への新型コロナワクチン接種の考え (Ver.3)

 新型コロナウイルス感染症第8波が始まり、接種を迷われている方も少なくないのではないかと思います。5~11歳の新型コロナワクチンについては、7月22日に記事にしましたが、新しい情報を追加し、更新させていただきたいと思います。

日本小児科学会としても私としても、メリット>>デメリットより全てのお子様に接種を推奨しております。

 

1.接種が必要な背景について

1) 頻度はまれですが、重症化するリスクがあります

2022年1月1日~8月31日までに新型コロナウイルス感染症により死亡した20歳未満は41例 (0歳が8例, 1~4歳が10例, 5~11歳が17例, 12~19歳が5例)でした。詳細の明らかな29例のうち、5歳以上は15例でそのうち基礎疾患は9例 (60%)でした。死亡例としては、循環器系の異常 (心筋炎, 不整脈), 中枢神経系の異常(急性脳症)が多かったです。これはあくまでも死亡例で、詳細の報告はまだありませんが、脳症により。後遺症を残す例もあるかもしれません。栃木県の自治医科大学だけで、今年の1~9月までに急性脳症例を13件対応していたようです。

新型コロナ感染の子ども 急性脳症で搬送増加「すぐ連絡を!」|NHK 栃木県のニュース

 

その他、幸い死亡例の報告はありませんが、小児多系統炎症性症候群 (MIS-C) という重症化の病態をみとめるケースがこれまで国内で少なくとも64例が報告されています。MIS-Cとは、新型コロナに感染した2~6週後に発症し、発熱, 腹部症状 (腹痛, 嘔吐, 下痢), 発疹, 眼の充血, 血圧低下などをみとめます。その頻度は海外の報告では0.1%未満とされていますが、重症度は高く、致死率が1~2%とされています。

それ以外に、「軽症」にカウントされますが、発熱・嘔吐による脱水, クループや熱性けいれんにより入院を要する例も散見されております。

2) 頻度は低いですが感染後の後遺症のリスクもあります

だるさ, 頭痛や嗅覚障害などの症状が、発症後4週間を経過しても続きます。英国の小児1734名を対象とした調査で、発症28日後に4%, 発症56日後にも2%に症状をみとめたという報告があります。

 

2.ワクチンの効果について

まず、前提としてワクチンを接種する目的を再確認しましょう。感染症にかからないために, ②感染症にかかっても症状が軽くすむように (重症化予防) ,③感染症を周りの人たちにうつさないために,接種します。なかでも、重症化予防が主目的になります。

発症予防効果は、米国の救急外来受診例を対象とした報告では、接種14~67日後の発症予防効果が51%,イスラエルからの報告では、短い期間でしか検討できておりませんが、2回接種した7~21日目の予防効果が48%でした。なお、ワクチンの効果を年齢層毎に検討しており、5,6歳が69%, 7~9歳が49%, 10,11歳が36%と年齢が低いほど効果の高い傾向がみられました。シンガポールからの報告では、2回接種後の発症予防効果は37%程度でしたが、83%の入院抑止効果(重症化予防効果)をみとめました。

感染予防効果については、米国の、無作為に抽出した地域住民を対象とした研究によると2回接種14~31日後の感染予防効果は31%と報告されています。

また、少し話しが異なりますが、デンマークより、MIS-Cの発症リスクを89%低下させことが報告されています。

 

3,ワクチンの安全性について

この年齢層のワクチンのmRNA量は10μg/回と成人の1/3であるためか、副反応が比較的少ないです。発熱は1回目接種の2%, 2回目接種の9%と成人と比較すると少ないです。

心筋炎・心膜炎は、米国のVAERS (Vaccine Adverse Event Reporting System)によると、この年齢層では100万人中、男児が2.6人、女児が2.7人でした。

 

 

まとめると、1) 頻度は低いが重症化のリスクがある 2) 一定の発症予防効果と重症化予防効果がある 3) 安全性に問題なし より、メリット>デメリットと考え接種を推奨しております。

 

参考文献

・Walter, E. B, et al. Evaluation of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine in Children 5 to 11 Years of Age, 2022, NEJM, 386; 35-46.

・Fowlkes AL, et al. Effectiveness of 2-Dose BNT162b2 (Pfizer BioNTech) mRNA Vaccine in Preventing SARS-CoV-2 Infection Among Children Aged 5–11 Years and Adolescents Aged 12–15 Years — PROTECT Cohort, July 2021–February 2022. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. ePub: 11 March 2022.

・Mette Holm, et al.  Risk and Phenotype of Multisystem Inflammatory Syndrome in Vaccinated and Unvaccinated Danish Children Before and During the Omicron Wave, JAMA Pediatr. 2022 Jun 8;e222206

https://www.cdc.gov/vaccines/acip/meetings/downloads/slides-2022-06-22-23/03-covid-shimabukuro-508.pdf

・Cohen-Stavi CJ et al, BNT162b2 Vaccine Effectiveness against Omicron in Children 5 to 11 Years of Age, N Engl J Med. 2022 Jul 21;387(3):227-236.

・Tan SHX,tet al, Effectiveness of BNT162b2 Vaccine against Omicron in Children 5 to 11 Years of Age, N Engl J Med. 2022 Aug 11;387(6):525-532.