今日は、自閉スペクトラム症 (ASD) 児と注意欠如・多動症 (ADHD) 児の衝動性を評価した研究を紹介します。
論文は、
筆頭著者:池上将永 (旭川医科大学)
雑誌:小児の精神と神経 6: 223-231, 2020
📕 背景と目的
・遅延時間に伴う報酬価値の割引を遅延割引と呼ぶ
遅延割引は即時小報酬への選好を予測することから、衝動性の指標とされる
例) 24時間後にもらえるお菓子セットよりもすぐにもらえるあめ玉1個を選ぶ
即時小報酬と遅延大報酬の選択場面における衝動性は報酬の主観的価値が遅延時間
に伴って大きく割り引かれることによって生じる
📕 どんな子が研究に参加したの?
※ADHD-RS:54点満点。
https://www.hospital.nagano.nagano.jp/common/img/medical/other/child_mental_center/adhd-rs-home.pdf
ざっくりですが、25点以上は高いと考えてよい
📕何を調査したの?
(1) 遅延割引率
・報酬は実際に支払われるのではなく、仮想である。
・遷延時間の条件は今すぐ・30分・2時間・3時間・5時間、24時間、48時間、1週間
後、1ヶ月後、2ヶ月後、1年後の順に提示
・遅延時間は、即時小報酬 (200円)と遅延大報酬 (500円) の間で選択が切り替わる
遅延時間条件の前後にある
・V=A/1+κD V:割引後の価値 200円 A:報酬量 500円 D:遅延時間 κ:割引率
この式によりκを算出
(2) 日常場面における自己制御質問紙
4コマ漫画で呈示された、即時小報酬 (今すぐに欲しいオモチャを1つ買ってもらう) 、遅延大報酬 (約6ヶ月後まで待ってオモチャを2つ買ってもらう) のいずれかを選択
📕 結果
(1) 割引率の算出率
割引率を算出できたのは、58/82名 (70.7%)であった、算出率について、ADHD群 35/52 (67.3%)とASD群 23/30 (76.7%)で有意差はなかった。
※例外反応:遅延大報酬から即時小報酬に選択が切り替わった後に、再び遅延大報酬に切り替わる、矛盾した選択。ADHD群で25%と目立ったのは、熟慮する前に反応するADHD児の特性を表している可能性がある。
(2) 日常場面における自己制御質問紙 (4コマ漫画)
遅延大報酬を選択したのは、ADHD群の32/51名 (62.7%), ASD群の16/30 (53.3%) で有意差はなかった。
(3) 遅延割引率の妥当性の確認
日常場面における自己制御質問紙 (4コマ漫画)で、即時小報酬を選択した児と遅延大報酬を選択した児の遅延割引率 (図1) を比較したところ、即時小報酬を選択した児の方が有意に割引率が高かった。
(=遅延割引率は衝動性の指標として妥当)
(4) 割引率 (図1, 図4)
・ADHD群において、割引率は年齢と有意な負の相関を示した
(=年齢があがるほど割引率が下がる)
・ASD群では年齢と割引率に有意な相関は無し
・知能検査指数と割引率に有意な相関はなし
📕結論
ADHD児とASD児の衝動性の評価に割引率が有用な指標となる
ADHD群とASD群の割引率に有意差は見られなかったが、過去に定型発達児で報告されている値よりも大きいことより。ASD児とADHD児は衝動性が高い傾向にある
ADHD群は加齢とともに割引率が低下する(=衝動性が低下する)
📕感想
ASD群のADHD-RSもかなり高値であり、ASD群とADHD群を比較したいのなら、純粋なASD児のみを対象とした方が良いと思われる。また、定型発達児の割引率を10年前の過去の報告を持ち出して、それを要旨に記載している事も気になる点である。
ADHD-RSの得点と割引率のデータがあると、ADHD傾向の程度と割引率の関連を評価でき、興味深いデータが得られたかもしれない。
あまりにも、突っ込みどころが多すぎる論文ではあるが着眼点は面白かった。経時的に評価していくことで、成長に伴う衝動性の軽減を示していくことができる可能性もある。