5~11歳への新型コロナワクチン接種への考え (ver.2)

はじめに

  5~11歳への新型コロナワクチンについて、3月に私の考える、接種を推奨する意見・迷う意見をまとめ記事にさせていただきました。当時は、「ピークを過ぎた頃に、数ヶ月で効果の減弱するワクチンをいまさら・・・。しかも、ほとんどが軽症だし。もう少し様子を見てもいいかな」という考えもあり、私は接種に賛成でも反対でもなく、慎重な考え方でした。しかし、今は状況が変わっております。新規感染者数が急速に増加しております (3月時点とは違うオミクロンBA.4/5の感染が急速に拡大中です)。園や学校が夏休みに入れば少しは緩和されるかもしれませんが、現在の第7波は2~3ヶ月くことが予想されています。小児では大部分は軽症 (80%弱が発熱期間は2日以内)ですが、インフルエンザと同様に、一定数は入院を要します(軽症にカウントされていても、脱水や痙攣で入院を要するケースもあります)。頻度は稀であるものの、栃木県より基礎疾患のない女児が脳症により亡くなったということも報告されました。

 また、3月以降、新型コロナワクチンの有効性や安全性に関する報告も蓄積されてきました。

 現在では、私の考えとしては、「接種をした方がのぞましい」と変わっております(「接種すべき」よりは弱いです)

  公費でワクチンを接種できるのが2022年9月30日までとなっており、無料で受けるには8月中には決断しないといけません。

初回接種(1回目・2回目接種)についてのお知らせ|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

そこで、今回、情報を追加し、更新することにしました。

(緊急で作成し、70%の完成度であることご了承お願い致します🙇)

 

(1) 新型コロナウイルス感染症の症状について

大部分の小児は軽症ですが、基礎疾患のあるお子様は重症化する可能性があり注意を要します。ざっくりとした計算ですが、約1,500~2,000人に1人は中等症以上となる可能性があります。

 

teammanabe.hatenablog.com

 

しかし、発熱が続き脱水となり入院するケースや痙攣を起こし入院するケースなどは、定められている基準に基づくと、入院を要する状況であっても軽症とカウントされる可能性があります。

 

また、頻度は少ないと思われますが、以下の病態が引き起こされる可能性があります。

   a) 心筋炎・心膜炎

5~11歳の頻度は不明ですが、20歳未満で876/100万(1141人に1人)という海外の報告があります。多くは軽症で予後は良好です

  b) コロナ後遺症 (long COVID-19)

だるさ, 頭痛や嗅覚障害などの症状が、発症後4週間を経過しても続きます。英国の小児1734名を対象とした調査で、発症28日後に4%, 発症56日後にも2%に症状をみとめたという報告があります。

  c)小児多系統炎症性症候群 (MIS-C/PIMS)

  新型コロナに感染した2~6週後に発症し、発熱, 腹部症状 (腹痛, 嘔吐, 下痢), 発疹, 眼の充血, 血圧低下などをみとめます。その頻度は海外の報告では0.1%未満とされていますが、重症度は高く、致死率が1~2%とされています。ただし、アジア人には少なく国内での発症頻度は不明です。なお、オミクロン株は、野生型やデルタ型よりMIS-Cの発症頻度は低いとされています。

 d) 脳症

 5月に栃木県で基礎疾患のない2人の児が急性脳症をおこし、1人は死亡した例、もう1人は後遺症を残したことが報告されました。日本小児神経学会によると2022/5/31現在、国内で10名ほど報告されているようです。

新型コロナ 女児死亡 急性脳症の症状は 異変に気付くには|NHK

新型コロナ 急性脳症で5歳未満の子どもが重症に 栃木 | NHK | 新型コロナウイルス

 

 

(2) ワクチンの効果について

 ワクチンは,感染症にかからないために, ②感染症にかかっても症状が軽くすむように,③感染症を周りの人たちにうつさないために,接種します。これに加え、接種により安心して登校や外出ができるようになる (接種による外出時の精神的な不安の軽減)ことも期待されます。

 5~11歳への新型コロナワクチンの効果は、接種14~67日後の発症予防効果が51%, 接種14~31日後の感染予防効果は31%と米国より報告されています。

春先にすでに感染しているんですけど、と言う方もいらっしゃるかと思います。

オミクロンBA.1/2に感染していても現在、勢力を拡大しているBA.4/5に感染する可能性はあります。ワクチン接種によりそのリスクを軽減できます。

また頻度は稀ですが、MIS-C発症の予防効果も最近報告されました。

 

(3) ワクチンの安全性について

新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンは長期的な安全性など不明な点はありますが、今のところ大きな問題は報告されていません。心筋炎のリスクもこの年齢層だとかなり低いです。その一方で、新型コロナウイルス感染症も感染後の長期経過についてはまだ分かっていないことがあります。

 

2022/7/22現在、新型コロナウイルス感染症は急速に拡大しております。ワクチン接種をするなら、今かなと思います。

私としては、「接種を推奨」しております。

接種を希望するお子様・保護者の方には,接種の際に不安が少なくなるよう努めていきたいと考えております。ご不明な点があれば気軽にご相談ください。

 

参考文献:

1) Zimmermann P, et al. Should children be vaccinated against COVID-19?, Arch Dis Child,  2022 Mar;107(3)

2) Pajon R, et al, Initial analysis of viral dynamics and circulating viral variants during the 
 mRNA-1273 Phase 3 COVE trial. Nat Med. 2022 Feb 10.

3)Singer ME, Taub IB, Kaelber DC. Risk of myocarditis from COVID-19
infection in people under age 20: a population-basedanalysis. medRxiv 2021:2021.07.23.21260998.

4) 工藤絵里子, 他.川崎病に準じて治療したCOVID-19関連小児多系統炎症性症候群の年長児例, 日本小児科学会誌, 125; 1574-1580, 2021

5) Walter, E. B, et al. Evaluation of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine in Children 5 to 11 Years of Age, 2022, NEJM, 386; 35-46.

6) Fowlkes AL, et al. Effectiveness of 2-Dose BNT162b2 (Pfizer BioNTech) mRNA Vaccine in Preventing SARS-CoV-2 Infection Among Children Aged 5–11 Years and Adolescents Aged 12–15 Years — PROTECT Cohort, July 2021–February 2022. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. ePub: 11 March 2022.

7) Mette Holm, et al.  Risk and Phenotype of Multisystem Inflammatory Syndrome in Vaccinated and Unvaccinated Danish Children Before and During the Omicron Wave, JAMA Pediatr. 2022 Jun 8;e222206