抗菌薬 (抗生物質)の使用は必要最小限を目指しています

今日は、外来で処方することのある抗菌薬の薬剤耐性菌問題と対策についてです。日本小児科学会誌の4月号に掲載された総説が、とてもインパクトの強い内容でしたので、紹介させていただきます。できるだけ平易な言葉を使うようにしましたが、少し難しいかもしれません(私の文章力のなさによるものです)。わかるところだけでも拾い読みしていただけると幸いです。

 

タイトル:小児における薬剤耐性菌対策と抗菌薬適正使用

著者:大竹正悟, 笠井正志, 宮入烈

雑誌:日本小児科学会誌, 125 (4), 569-578, 2021

 

1.ウイルス感染症と細菌感染症について

病原体は大きくウイルスと細菌🦠に分かれます。ウイルスは、一部のウイルスには抗ウイルス薬を使用しますが、基本的には特効薬がなく自然治癒を目指します細菌に対しては、抗菌薬 (抗生物質) が有効です。すごくざっくりですみません💦

2.薬剤耐性菌 (Antimicrobial Resistance :AMR) とは

薬剤耐性菌とは、従来の抗菌薬の効かない菌のことです。耐性菌に感染すると、治療の手立てがなく、重症化のリスクがあります。世界では毎年70万人以上がAMRによる感染症で死亡しております。日本では、年間で約8,000名が死亡していると推計されています。(Tsuzuki S, et al.National trend of blood-stream infection attributable deaths caused by Staphylococcus aureus and Escherichia coli in Japan. J Infect Chemother. 2020 Apr;26(4):367-371)

また、AMR感染による年間追加医療費は1,700億円と推計されています。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000120769.pdf

このまま、AMR対策を行わずに時間が過ぎると、今の子ども達が成人となった時に、肺炎を起こした際に使用できる抗菌薬がなくなり、感染症による死亡リスクが高くなります。2050年までに世界で毎年1,000万人が死亡する可能性があると言われています。

3.耐性菌 (AMR) はどうしてできるの?

抗生物質の使用が原因です。抗菌薬の使用により、耐性菌以外の細菌が減少し、耐性菌が増えやすい環境となります。また、抗菌薬分解酵素を過剰産生する場合もあります。抗菌薬の使用量と耐性菌の割合は関連が確認されており、使用量の減少により感受性(=効果)が回復する場合もあります。

4.耐性菌 (AMR) を減少させるには?
耐性化の減少には、経口第3世代セファロスポリン系抗菌薬 (セフジトレンピボキシルなど), マクロライド系抗菌薬 (クラリスロマイシンなど), フルオロキノロン系抗菌薬 (オゼックスR) の使用量を減少させることが必要ですが、わが国では5歳未満へのこれらの薬剤の使用の多いことが問題となっています。

このような状況から政府より、これらの抗菌薬の使用量を半分に減少させることを目標とするAMR対策アクションプランが掲げられました。その結果、2019年は2013年と比較し、10.9%の減少を達成しましたが、徐々に減少幅が小さくなり、2018~2019年にかけては0.7%の減少にとどまっています

5.外来での抗菌薬使用について

基本的に感冒(カゼ)は自然治癒するので抗菌薬は必要ありません。外来で抗菌薬が必要な状況は、溶連菌による咽頭炎, 細菌による副鼻腔炎, 中耳炎, 肺炎などです。

一般的に感冒は鼻汁と軽度の咳など上気道症状が出現し、2~3日をピークに症状は7~10日かけて自然軽快します。すなわち、症状が出現した段階では、抗菌薬処方は必要なく、その後の経過を見ていくことが大事です。以下は、抗菌薬投与が不適切と考えられる基準です。

<抗菌薬投与が不適切と考えられる基準>
以下の状況を満たす場合は抗菌薬は必要ない
・鼻汁
・鼻閉±発熱±軽い咳
・呼吸障害がない
・全身状態がよい
・熱の持続期間が3日以内
・鼻汁の持続期間が 10 日以内
・湿性咳嗽の持続期間が 10 日(2週間)以内

その一方で、以下のいずれかに当てはまる場合は抗菌薬投与を考慮すべき状態です。

<抗菌薬投与を考慮すべき状態>
以下のいずれかに当てはまる場合、遷延性又は重症と判定する。
1. 10 日間以上続く鼻汁・後鼻漏や日中の咳を認めるもの。
2. 39℃以上の発熱と膿性鼻汁が少なくとも 3日以上続き重症感のあるもの。
3. 感冒に引き続き、1 週間後に再度の発熱や日中の鼻汁・咳の増悪が見られるもの。
4.その他の抗菌薬が適応となるような合併症(化膿性中耳炎、細菌性肺炎、尿路感
染症、菌血症など)を認める。

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000573655.pdf

 

この総説を読んでより抗菌薬の処方についてより真剣に考えないといけないと思いました。私自身は必要なケースに絞っているつもりですが、電子カルテを導入後はしっかり統計をとっていきたいと思います。

また、色々な方への啓発も大事です。まずは当院のかかりつけの方から始めていきたいと思います。未来の子ども達のために