先日、陰嚢水腫についてお話させていただきました。今日は、機序が同じ、鼠径ヘルニアについてお話させていただきます。外来では、お母様より、「脚のつけねが時々膨らむんですけど」とご相談いただくことが時々あります(写真があるとありがたいです)
外来でも年に数名は遭遇し、大学病院の小児外科へ紹介させていただいております。
✎鼠径ヘルニアとは
男児の場合、精巣は、お母さんのお腹の中にいる時 (胎生5~7ヶ月)に下に降りてきて、陰嚢内におさまります。その時の、通り道 (腹膜鞘状突起) は通常閉鎖されます。通り道が閉鎖されずに残り、腸管が脱出し、鼠径ヘルニアとなります。
女児では、卵巣は腹腔内にとどまりますが、子宮円靱帯の下降します。その時の通り道が、男児の腹膜鞘状突起に相当し、Nuck管と呼びます。
なお、男児の場合、この通り道が狭いと、腹腔内の液体 (腹水) が貯留した、陰嚢水腫となります。
✎頻度はどれぐらい?
正期産児における罹患率は3.5~5.0%、早期産児 (37週0日以前に出生) では約10%程度,
極低出生児 (1500g未満)で約30%に及ぶとされています。
一般に男児に多く、右側が60%, 左側が30%, 両側が10%と言われています。
✎緊急性のある状態である嵌頓
通常は膨らんでもすぐに元に戻る状態(還納可能な状態)ですが、まれに元に戻らな
くなり、強い痛みを伴う、嵌頓という状態になることがあります。これは、絞扼性ヘルニアという血行障害を伴う(最悪の場合腸閉塞や腸壊死) 状況に進展する可能性がある
緊急性の高い状態です。医療機関をすぐに受診しましょう。1時間以内に整復できなければ、緊急手術となる可能性があります。
※これとは別に還納はできないが、膨隆以外の症状がなく、緊急性がない状態は非還納性ヘルニアといって区別されます。
✎予定手術のタイミング
ヘルニアのガイドラインでは、1歳未満の症例は、確定診断しだい早期に治療することや1歳まで待機するにも明確なエビデンスはなく、各施設の対応に委ねられているようです。
私としては、疑い次第、大学病院の小児外科に紹介しております。手術時期が、先になるとしても、嵌頓し、整復できなかった場合に、スムーズに対応してもらえるよう、つながっておきたいというのもあります。
参考文献
1..藤村 匠,他.【発生学から考えてみよう!小児の先天疾患】鼠径ヘルニア、陰嚢水腫、精索水腫, 小児科診療. 2021.84:1111-1116.