先日、歯科医の友人より、「最近生まれた第2子の陰嚢が夜に大きくなり驚いた。大丈夫か?」と質問がありました。「陰嚢水腫だね。基本的には経過観察。健診や予防接種の時にかかりつけの小児科医にみてもらって」と回答しました。今日は、陰嚢水腫についてお話しします。
✎陰嚢水腫 (いんのうすいしゅ)とは
精巣は、お母さんのお腹の中にいる時 (胎生5~7ヶ月)に下に降りてきて、陰嚢内におさまります。その時の、通り道 (腹膜鞘状突起) は通常閉鎖されます。通り道が閉鎖されずに残り、腹腔内の液体 (腹水) が貯留した状態を陰嚢水腫といいます。なお、この通り道が広いと、腸管が脱出し、鼠径ヘルニアとなります。
陰嚢水腫は、通り道(腹膜鞘状突起) が開存して、腹腔内と陰嚢内を液体が行き来する交通性(幼児期に多い)と通り道が閉鎖した非行通性に分かれます。交通性の場合、水腫のサイズが変化しやすく、朝は小さいが夕方に腫大します。水腫が、陰嚢から腹腔内まで水腫となり、大型となった病態をASH (abdominoscrotal hydrocele) とよびます。頻度は小児陰嚢水腫の1.25%で自然治癒しにくいです。なお、通り道の途中に腹水が貯留したものを精索水腫とよびます。
✎治療は?
通り道(腹膜鞘状突起) は新生児期では約90%の症例で開存していますが、そこから2年間で約70~80%は自然閉鎖するので、少なくとも2歳までは経過観察が妥当と思われます。
五苓散という漢方薬が効果があったという報告もあります5)。
下記の場合は、手術を検討します。
1) 経過観察しても縮小傾向がない
2) 巨大例 (6cmを超える場合は手術を念頭におく)6)
・自然治癒率:3cm< 70% 6cm<60%台
・要手術率:4.5cm> 8.6%, 4.5cm< 18.6%, 6cm< 35%
3) 水腫の緊満感が強い
4) 疼痛などを呈する
5)鼠径ヘルニアや停留精巣を伴う
当院では、経過観察をしつつ、必要あれば泌尿器科へ紹介いたします。
陰嚢水腫に限らず、おちんちんに関することも対応させていただいております。
気軽にご相談ください😃
参考文献
1.石井 啓一, 他.【もう悩まない! 小児泌尿器科疾患へのファーストタッチ】陰嚢水腫 陰嚢水腫に対するファーストタッチ, 臨床泌尿器科. 2023.77:92-96.
2. 仲西 昌太郎, 他.小児泌尿器疾患におけるそもそもとまっとう 小児陰嚢水腫の治療について.西日本泌尿器科. 2022.84:479-482.
3.林 祐太郎,他.【専門性と多様性を両立させる! 泌尿器科外来ベストNAVI】先天性および小児泌尿器疾患 陰嚢水腫, 臨床泌尿器科. 2022.76:303-305.
4.藤村 匠,他.【発生学から考えてみよう!小児の先天疾患】鼠径ヘルニア、陰嚢水腫、精索水腫, 小児科診療. 2021.84:1111-1116.
5.直江直樹, 他.陰嚢水腫, 小児外科.2021,53:644-646.
6.山口孝則,他.自然歴からみた小児精巣・精索水瘤に対する手術適応. 日泌尿会誌, 1996, 87:1243-1249.