先生、子宮頸がんワクチンは接種した方がいいでしょうか?

今日は、最近、積極的勧奨が再開される、接種できなかった女性へのキャッチアップ接種など話題となっている、子宮頸がんワクチンについてです。

心とからだの健康 11月号 (健学社) に掲載された私の原稿を紹介します。

出版後に、こうしたニュースがあり、我ながら、とてもタイムリーであったと思ってます。

f:id:teammanabe:20211226074714j:plain

 

開業小児科医と中学3年生の女生徒 (Nさん)の対話形式で子宮頸がんワクチンについて解説しております。

 

Nさんは中学3年生の女子。市より子宮頸がんワクチンの案内が届きましたが、接種するかどうか迷っております。そこで、かかりつけの先生に聞いてみることにしました。

Nさん「先生、子宮頸がんワクチンって接種した方がいいんですか?」

先生「私は接種を勧めています。子宮頸がんは、25~44歳の女性に発症のピークがあります1」日本では毎年約1万人の女性が発症し、約3,000人の方がなくなっており、マザーキラーと言われています2)

Nさん「えー、なんだか怖くなってきました。ところで、どうしてワクチンでがんが予防できるのですか?」

先生「いい質問ですね。子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス (HPV)の感染が原因です。性交渉により感染し、約80%の女性が生涯のうちに感染します。感染しても大部分は本人の免疫により排除されますが、約1%の方が、数年後に前がん病変 (がんの手前の状態)を発症します2)このワクチンにより、HPVが子宮頚部に感染するのを防ぎます

母「副反応が心配です」

先生「まずは一般的な副反応ですが、大部分の方が接種部位に痛みを認め、なかには発熱や頭痛を認める方もいますが、2~3日で軽快します。お母様としては、以前に報道されたような、痛みや運動障害が続くことが心配ですよね。厚労省の調査によると、接種された338万人のうち、副反応疑いの報告があったのは2,584人 (0.08%) でした。そのうち、その後の経過が把握できた1,736人のうち、7日以内の回復は974人 (56%)で、最終的に1,550人 (89%)が軽快し通院不要となっております3)痛みと運動障害が続くのは、現時点では、針を刺した痛みをきっかけに心身の反応が現れ、色々な条件のもとで、これらの症状が慢性化したことが考えられています4)。また、国内の疫学調査によると、HPVワクチンを接種していない女児にも一定の割合で、同様の症状が認められています5)。副反応として報告された児の全てにHPVワクチンが関与しているわけではなさそうです」

母「痛みが続くケースは比較的まれで、さらに大部分は軽快するということですね。それでも悩みますね・・。検診を受ければいいですし」

先生「検診については、問題点が2点あります。1点目は、検出感度には限界があることです。子宮頸がん92例のうち18例 (19.6%)が過去3年以内にがん検診を受けていたという報告があります6)。2点目は、検診はあくまでも早期発見が目的なので、発見した前がん病変・初期がんの多くは円錐切除による介入が必要となります。この処置により流早産のリスクが増加することが示されています7)。」

先生「また、ワクチンも有効性が70%で、完全に予防できるわけではありません2)。子宮頸がんの予防には、ワクチンと検診の両方が必要です。」

Nさん「大人になってから考えるというのではだめですか?」

先生「それもありだとは思います。ただし、ワクチンには、すでに感染しているHPVを排除する効果はないので、初交前に接種するのが最も有効です。また、医学的な話ではありませんが、定期接種の時期を過ぎると自費接種になります※。計3回で約5万円かかります。最近、承認された9価ワクチンは約8万円かかります」

Nさん「先生、ありがとうございました。帰ってからゆっくり考えます」

先生「うん。また分からないことがあったら遠慮なく相談してね」

1週間後、Nさんは来院して1回目の接種を受けました。接種部位の痛みをみとめましたが2日後には軽快し、部活動にも元気に参加しています。

 

参考文献

1) 横山良仁, 子宮頸がんの治療戦略, 医学と薬学, 2019; 76: 137-142.

2) 山田正興, HPVワクチン接種再開に向けて, 東京小児科医会報, 2020; 39:22-26.

3) 副反応追跡調査結果について. 第15回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会 資料 (平成27年9月17日)

4) 岡部信彦.どうするHPVワクチン:私の意見・提言. 外来小児科 2019; 22: 66-70

5) 全国疫学調査結果(子宮頸がんワクチンの有効性と安全性の評価に関する疫学研究) : 第23回 副反応検討部会資料 (2016年12月26日)

6) 森澤宏行, 他. 子宮頸がんおよびCIN3症例のがん検診歴に関する検討.日臨細胞学会誌 2012;51:164-168.

7) Kyrgiou, et al. Adverse obstetric outcomes after local treatment for cervical preinvasive and early invasive disease according to cone depth: systematic review and meta-analysis. Brit Med J 2016;354

 

※1997~2005年度生まれの女性に対し、厚生労働省が子宮頸がんワクチンを無料で接種できる機会を設ける方針です。接種を受けられる期間は来年度からの3年間としています。対象者には個別にパンフレットを送って周知することにしています。