今回は、点眼薬誤飲により意識障害を起こした幼児の報告を共有させていただきます。
論文は、
タイトル:市販点眼薬誤飲による幼児の意識障害
筆頭著者:小松陽樹
雑誌:日本小児科学会雑誌、125,1078-1081,2021
📖 発症状況
1歳0ヶ月の女児。午前7時半頃、児がOTC (over-the-counter=薬局やインターネットで入手できる処方不要)点眼薬 (成分:塩酸テトラヒドロゾリン0.05%, グリチルリチン酸2カリウム0.25%, クロルフェニラミンマレイン酸0.03%, パンテノール0.1%, L-アスパラギン酸カリウム1%) で遊んでいることに母が気付いた。点眼薬は新品 (15ml/本)であり、入っていた液体の量が約半分に減少していた。ハイハイして機嫌良く遊んでいたため、様子を見ていたが、午前8時頃に突然視線が合わなくなり、呼びかけに反応せず、傾眠傾向となり救急車で搬送された。
📖入院後
診察時に、心拍数低下と呼吸数の減少, 軽度の意識障害 (痛み刺激で開眼しないが、啼泣あり)が見られた。点滴した後、入院で経過観察された。18時には刺激なくても開眼、20時には母乳が飲めるようになった。入院翌日の朝には、自分でスプーンを使用し食事をとれるようになり、退院。
📖解説 (出典は論文をご参照ください🙏)
・OTC点眼薬のイミダゾリン誘導体の塩酸テトラヒドロゾリン中毒による意識障害
この物質は、血管収縮作用を持ち、眼の充血改善目的で使用される
・イミダゾリン誘導体は「鼻汁・鼻づまり」の改善を目的にOTCの点鼻薬に含まれるが
乳幼児は中毒症状が出現しやすいため使用できない
・乳幼児がイミダゾリン誘導体を誤飲した場合、意識障害、呼吸抑制、血圧低下、
徐脈、縮瞳などの中毒症状が出現する
・塩酸テトラヒドロゾリンは、腸管で急速に吸収され、中毒症状の出現に要する
時間は15~30分 (血中半減期は4~5時間)
・乳幼児では、0.05%塩酸テトラヒドロゾリンを1~2ml誤飲するだけで意識障害が
生じることがある
・アメリカ食品医薬品局 (FDA)の2012年に実施した調査によると、約30年で96例の誤飲の報告があり、年齢幅は1ヶ月~5歳。死亡例はないが、意識障害で53例が入院
・イミダゾリン誘導体は10種類以上存在する。本邦の点眼薬は塩酸テトラヒドロゾリンを使用している製品が多く、著者の調べた範囲では2020年9月に時点で少なくとも59に商品に使用されていた。
・塩酸テトラヒドロゾリンの濃度は0.01~0.05%で、濃度が0.05%の商品は26/59商品 (44%)であった