手洗いについて~石けんの有効性を中心に

今日は、手洗いをテーマにお話しします。

 

1.石けんについて

15秒の流水による手洗いでも、手洗いをしない場合と比較してウイルス量は約1/100に減少しますが、ハンドソープを用いるとさらにウイルス量が減少することが報告されています1)

石けんは界面活性剤といって、水と相性のよい親水基と油と相性のよい疎水基の相反する性質を持っています。

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疎水基で汚れや水に溶けないタンパク質でできているウイルスなどを取り込み、親水基を外側に向ける事で、ミセルという極小の球状物質を形成し、水とともに洗い流すことができます2)

 

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(図はいずれも文献2より引用)

 

石けんを使う時は、節約せず、よく泡立てましょう。それにより、界面活性作用を十分

に引きだすことで効率よく手からウイルスを除去できます。

 

学童を対象とした、石けんを用いた手洗いの感染予防効果を検証した研究を紹介します

エジプトのカイロで2008年2~5月に行われた研究です3)。公立小学校60校に通う児童, 約44,000人を対象とし、30校ずつ、手洗いを指導された群 (介入群)と手洗いを指導されなかった群 (対照群)の2群に分けられました。介入群は、期間中、学校内で手洗いに関する強化キャンペーンが行われ、さらに少なくとも1日2回の手洗い(石鹸を使用し、45秒間洗い、すすいだ後にきれいなタオルで拭く)が指導されました。それに対して、対照群では、従来通り、学校の手洗い場に石鹸がなく、水洗いした後は、自然乾燥か洋服で拭いておりました。研究開始より、12週間でのインフルエンザ様疾患 (38度以上の発熱に加え、咳嗽あるいは咽頭痛を認めるもの。インフルエンザでないものも含む), 下痢および結膜炎により欠席した児童の割合を比較しています。その結果、介入群は対照群と比較し、インフルエン様疾患は40%, 下痢は33%, 結膜炎は67%発症率が低下しておりました。

 

(2)手洗いの注意点

いくら手洗いを実施しても手を洗う時間が短すぎると効果が不十分となることがあります。3~5歳の保育所児童を対象にとした報告では、手の細菌数は、手洗い時間が5秒では減少していませんでしたが、20秒間で著明に減少しておりました 4)。また。対ノロウイルスのデータですが、10秒の手洗いを2回繰り返すことでウイルスの遺伝子量の減少効果が見られました1)。以上より、丁寧かつ頻回の手洗いが重要と思われます。

 

参考文献

1.森攻次, 他. Norovirus の代替指標としてFeline Calicivirus を用いた,手指に添加したウイルスの速乾性消毒剤による擦式消毒,ウェットティッシュによる清拭および機能水を用いた手洗いによる除去および不活化効果の検討, 感染症学雑誌, 2006; 80: 496-500.

2.高橋秀依, 夏苅英昭. 感染症予防ってどうするの?, 都薬雑誌, 2020; 6: 4-6.

3.Talaat, et al. Effects of hand hygiene campaign on incidence of laboratory-confirmed influenzae and absenteeism in schoolchildren, Cairo, Egypt. Emerge Infect Dis 2011; 17:619-625.

4.山本恭子, 他. 除菌効果からみた保育所児童における有効な手洗い方法の検討. 学校保健研究 2002; 44: 299-308.