咳止めはカゼの診療に必要なのか?

以前にも記事にさせていただいたように咳止めに出荷調整がかかっており、薬局より「在庫ありません」と電話がかかってくることも増えてきました。

 

teammanabe.hatenablog.com

 

しかし咳止めは本当に必要なものでしょうか?

今日は、国内の小児科開業医の先生方より発表された論文を紹介させていただきたいと

思います。

 

筆頭著者:西村龍夫

タイトル:急性咳嗽を主訴とする小児の上気道炎患者へのチペピジンヒジンズ酸塩の

     効果

雑誌:外来小児科, 22 (2); 124-131,2019

ACイラストよりダウンロード



概要ですが、

2018年5月~8月の期間に14箇所の小児科診療所を受診した、1歳~就学前までの、咳を理由に受診した上気道炎 (カゼ)の患者さんを、去痰薬のみを服用するグループ去痰薬に咳止めを追加したクループ (つまりは、去痰薬 vs 去痰薬+咳止め) に分け、受診2日後に保護者へ電話し、咳嗽症状の状況を聞き取り調査を行い、その後の経過を比較しました。その結果、受診2日後には、両グループとも、咳嗽は改善していたが、咳止めを追加したグループの方が、「かえって、咳嗽が良くなったという回答が少ない」という結果でした。そのことから、著者らは、「1歳~未就学児の咳の患者さんに、去痰薬に加え咳止めを追加するとかえって、咳を遷延させる可能性がある」と結論しています。

 

もっと詳しくという方は以下もお読みください。

2018年5月~8月の期間に14箇所の小児科診療所を受診した、1歳~就学前までの、咳を理由に受診した上気道炎 (カゼ)の患者さん266名を去痰薬のみのカルボシステイン (ムコダインR)群去痰薬+咳止めの カルボシステイン+チペピジンヒジンズ酸塩 (アスベリンR) 群に分けてその後の経過を比較しました

 受診2日後に保護者へ電話し、咳嗽症状の変化について「良くなった、変わらない、悪くなった」の3段階で聞き取り調査をしております。

さて、気になる結果ですが、去痰薬のみの群は64.3%が改善したと回答しているのに対し、咳止めを追加した群は46.4%で、統計学的な有意差をみとめました。

論文の図を改変し引用

さてさて、咳止めを追加したら咳嗽は改善する、と通常は考えると思いますが、どうしてこのような予想外の結果となったのでしょうか。

これに対する、著者らの考察は、ポイントのみ抜粋すると、

咳止めの鎮咳作用によりかえって分泌物の排出を遅らせることで、かえって自然経過に悪影響を与えた可能性がある

■咳止めの効果に期待した保護者が子どもの咳嗽に過敏になり、「思ったよりも止まらない」と感じることが、結果に影響した可能性がある

と考察しております。

 

この論文だけでなく、色々な報告をみて、私としては、抗生物質や鼻汁止めに続いて、

咳止めの処方も減らしていきたいと考えております。効果が乏しいだけでなく、デメリットの方が大きい可能性があるからです。しかし、現実は難しい。外来では、患者さんは咳止めを求めて受診することが多いからです。今回の出荷調整はある意味チャンスかもしれません。丁寧に診察し、この論文を含めたデータを示しつつ、「咳嗽はウイルスなど気道の病原体や痰を外に出す体の防御反応であり、この作用により病気を早く治すことができる」ということを説明していきたいと思います。