医療崩壊に追い打ち?~複数のカゼ薬が出荷調整 

約1週間前より、外来で処方する感冒薬、抗菌薬が出荷調整となっております。

去痰薬:カルボシステインシロップ

鎮咳薬アスベリンシロップ、ドライシロップ  

ペニシリン系抗菌薬:クラバモックス, ワイドシリン (小児の中耳炎に使用)

など。

 

A薬局からは「○○がありません」B薬局からは「○○がもう少しでなくなります」などの連絡が連日、入ってきます。

これは危機的な状況と思ったかたが少なからずいらっしゃるかと思います。

でも、大丈夫です。ペニシリン系抗菌薬の出荷調整はきついのですが、感冒薬に関しては、それほど大きな問題ではありません。

 

なぜなら、カゼが治るのは自分の力で治るのであって、薬の力で治るのではないからです。率直に申し上げると、私は、感冒薬は症状が少し軽減されるといいな程度にしか考えておりません。それどころか、鎮咳薬はかえって咳を長引かせるリスクがあるかもしれません

 

 例えば、2012年に小児科医院を受診した生後6ヶ月~6歳の小児を対象とし、受診時とその3~4日後にお子様の状態を電話で確認した調査によると、両親のいずれかの喫煙, 鎮咳薬の処方が、咳嗽が長引くことと関連していると示唆されました1)。著者の先生は、咳止めの効果に期待する保護者が、かえって咳に注目してしまい、咳に過敏になってしまったと考察しておりました。

 同じ先生による研究をもう1つ紹介します。

  2018年5月~8月の期間に14箇所の小児科診療所を受診した、1歳~就学前までの、咳を理由に受診した上気道炎 (カゼ)の患者さんを、去痰薬のみを服用するグループと去痰薬に咳止めを追加したクループ (つまりは、去痰薬 vs 去痰薬+咳止め) に分け、受診2日後に保護者へ電話し、咳嗽症状の状況を聞き取り調査を行い、その後の経過を比較しました2)。その結果、受診2日後には、両グループとも、咳嗽は改善していたが、咳止めを追加したグループの方が、「かえって、咳嗽が良くなったという回答が少ない」という結果でした。そのことから、著者らは、「1歳~未就学児の咳の患者さんに、去痰薬に加え咳止めを追加するとかえって、咳を遷延させる可能性がある」と結論しています。

                (論文より図を作成) 

 

私としては、抗生物質や鼻汁止めに続いて、咳止めの処方も減らしていきたいと考えております。効果が乏しいだけでなく、デメリットの方が大きい可能性があるからです。しかし、現実は難しい。外来では、患者さんは咳止めを求めて受診することが多いからです。今回の出荷調整はある意味チャンスかもしれません。丁寧に診察し、この論文を含めたデータを示しつつ、「咳嗽は続くものであること、自然に改善するものであること、咳嗽はウイルスなど気道の病原体や痰を外に出す体の防御反応であり、この作用により病気を早く治すことができる」ということを説明していきたいと思います。

 

 

参考文献

1.西村 龍夫, 他.小児科外来を受診した軽症気道感染症の経過に影響する因子について

, 外来小児科. 2014.17:137-144.

2.西村龍夫, 急性咳嗽を主訴とする小児の上気道炎患者へのチペピジンヒジンズ酸塩の

効果, 外来小児科, 22 ; 124-131,2019