先日、外来で、お母様より「この子が1歳前になったらアメリカに移住するのですが、ワクチンはどうしたら良いでしょうか?」という質問をいただきました。
日本と米国の乳児期のワクチンの大きな違いは、「BCG接種」になります。日本は定期接種にBCGが含まれますが、米国では含まれません。
過去には、BCG接種をすると、アメリカでの入園や入学の際に、ツベルクリン反応で「陽性」となってしまい、面倒なことになるということで、接種しないことを選択した方もいらっしゃいました。
※ツベルクリン反応:結核菌感染の有無を知る1つの検査法。ただし、結核菌に感染したのか、BCG接種の影響かは区別できない
面倒なことというのは、病院に行って、胸部レントゲン検査や血液検査 (クオンティフェロンという結核菌の感染の有無を判断する検査)を受ける事を求められるということです。検査だけなら良いのですが、過去には、ツベルクリン反応陽性だけを根拠に、抗結核薬を飲まされた事例もあったようです。
本当にこんなことあるのだろうか?BCG接種歴があることを英語の文書で記載すれば大丈夫ではないのだろうか?と思って調べて見ました。
まずは、結論から。
日本でのBCG接種が問題となることは少ないが、入園・入学の書類記載時に余計な検査が加わるかも、です。
結核の罹患の有無に関する入学書類が必要な場合が多いようですが、校や園によっても対応は様々のようです。病院, 医師の対応も様々 (日本人の対応に慣れているかどうかも影響?)で、検査不要の場合もあれば血液検査を求められる場合もあります。英語の予防接種証明書(BCGの接種日も
BCG接種するかどうかを考えるにあたり重要なのは、結核の頻度と罹患した時の重症度です。
下図のように、米国の結核の頻度は、日本の1/4ですが、0~4歳児に限定すると、小児は、米国>日本と逆転します。日本のこども達は、BCG接種により、結核から守られているのではないかと思います。
これだけ頻度が低いなら接種しなくても良いのでは?と思うかもしれません。
しかし、BCG未接種で、結核菌に感染した場合
1歳未満→発病なし(50%), 肺結核(30-40%), 粟粒結核・結核性髄膜炎(10-20%)
1-2歳→発病なし(75-80%), 肺結核(10-20%), 粟粒結核・結核性髄膜炎(2-5%)
2-5歳→発病なし(95%)、肺結核(5%)、粟粒結核・結核性髄膜炎(<0.5%)
5-10歳→発病なし(98%)、肺結核(2%)、粟粒結核・結核性髄膜炎(<0.5%)
となります。
つまり、低年齢児ほど、感染時に発病し、髄膜炎など重度となる可能性があります。
以上より、私の対応としては、
・BCG接種をおすすめする
・入園や入学の際、場合によっては、追加検査を要する場合もあることを説明
・予防接種証明書は作成させていただく
となります。 (もちろん保護者の方のご理解と同意をいただいたうえで)
(この記事を作成するにあたり、経験を教えてくださった先生方, 文献を紹介してくださった先生方に深謝申し上げます)