今日は11~12月に当地域で流行していた伝染性紅斑 (リンゴ病) について解説します。
1.原因は?
パルボウイルスB19というウイルスの感染により起こります。自然界のウイルスではもっとも小さい部類のウイルスに入り、ラテン語で小さいを意味するparvusが名前の由来です。ちなみにB19はB19というラベルの血清培養皿より発見されたことに由来します。
伝染性紅斑は、5類感染症で全国約3,000か所の小児科定点医療機関より毎週報告されています(当院も含まれています)。4~6年の流行周期をもっており、流行が大きい年は
6~7月頃にかけてピークとなっています。
2.伝染性紅斑について
パルボウイルスは赤芽球前駆細胞(赤血球のもとになる細胞)に感染し、この細胞内でウイルスが増殖します。赤芽球前駆細胞への感染により一時的に赤血球が作れなくなりますが、赤血球の寿命は120日なので貧血になることはありません。ウイルス感染7~10日後にウイルス血症を起こします。この時期に微熱,悪寒,筋肉痛などかぜ症状をみとめます。この時期にウイルス排泄量がピークとなり、感染力が最も強く、口腔内や唾液よりウイルスが排出され、接触感染や飛沫感染を起こします。その後、パルボウイルスB19に対する抗体が産生され、ウイルス量は減少します。感染後14~20日に紅斑が出現します。最初は頬部に出現し、続いて、手足にも網目状・レース状の紅斑が出現します。2割弱の方に紅斑が1度消失した後に日光や機械的刺激により紅斑が再出現することがあります1)。再感染ではありません。
成人の場合は、皮疹がみられないこともあります。特に女性で関節炎症状をみとめることが多いです。
免疫は生涯持続し1度感染すると再感染することはありません。
3.登園・登校について
紅斑の出現時には感染力は低く、登園・登校は可能です。
4.感染に注意を要するケース
(1) 妊婦への感染
妊婦に感染すると、約2割がウイルスが胎盤を通過し、胎児感染を起こします。そのうち約2割、すなわち感染した妊婦の胎児の4%に何らかの症状が起こります。胎児に重度の貧血や心筋の障害が引き起こされます。2011年に実施された全国調査によると、69例のうち、母体に紅斑の症状をみとめたのは27例(39%)で、家族からの感染は37例(うち子どもが34例)でした。その後の経過は、分娩は17名で、中絶3名, 流産35名、死産14名でした2) 。妊娠週数が早いほど発生率が高く、28週以降では低くなります3)。
(2) 血液疾患の方への感染
血液疾患の方の中には、骨髄が頑張って赤血球の数を維持している方がいます。こうした方にこのウイルスが感染すると急激に重症貧血におちいります。
(3) 免疫抑制患者さんへの感染
ウイルスが排除困難のため持続感染を起こし、慢性的な貧血におちいることがあります
5.診断方法
症状から診断するしか方法がありません。
客観的な検査で現在、保険適応となっているのは、妊婦への感染が疑われた時のIgM抗体のみです。
伝染性紅斑のウイルスが感染してからの症状の経過と抗体の動きを図示します。
IgM抗体は初期対応部隊のような役割で、ウイルスが体内に入ると、最初に作られる抗体です。感染してから1〜2週間以内に作られます。ただし、長期間体内に残ることは少なく、感染が治まると減少します。それに対してIgG抗体は、記憶部隊のような役割でIgM抗体が働いた後に、遅れて作られます。感染から数週間後に増え始め、長期間体内に残ります。伝染性紅斑のIgG抗体は生涯持続します。そのため、IgG抗体陽性の場合は既感染と考えます。
6.治療
パルボウイルスB19に対する抗ウイルス薬は現時点では開発されていません。
症状は軽微であり、通常は、経過観察するのみでよいです。
7.妊婦さんへの感染対策 (私見も含まれます)
紅斑の出現時はすでに感染リスクの高い時期を過ぎており、一番問題となる妊婦さんへの感染を防ぐには時遅しです。
できることとしては、流行期には、マスク装着や手洗いを徹底しましょう。
保育園や学校で勤務している方は、流行期は状況が許すなら事務仕事を中心にしてもらうなどの配慮を受けるのも一つの方法です。
また、保険適応外ですが、妊娠前にパルボウイルスB19のIgG抗体の有無を把握しておく
のも有用です。測定し、IgG抗体が陽性であれば、既感染で免疫が備わっているので再感染の心配はありません。
参考文献
1.要藤裕孝:伝染性紅斑,.臨床と微生物2019; 46:47-51
2.Yamada H et al:National survey of mother-to-child infections in Japan. J Infect Chemother 2015;21:161-164.
3.Enders M et al:Fetal morbidity and mortality after acute human parvovirus B19 infection in pregnancy: prospective evaluation of 1018 cases. Prenat Diagn 2004;24:513-518
4.大石智洋:病棟におけるパルボウイルスB19感染症発生時の対応:小児科2018;59:1309-14.