【2年前の同窓会誌への投稿記事】最強の小児科電子カルテを一緒に作りませんか? 2021.8執筆

当院は2021年6月に念願であった電子カルテクラウド型)を導入しました。これだけなら、「良かったですね」で終わる話ですが、実はこの電子カルテはまだ開発中で、ようやく荒波を越えつつあるところなのです。

以前より、私は、電子カルテ化を熱望しておりました。理由は大きく分けて3つあります。一つ目は、業務の効率化です。看護師が事務の手伝いやカルテ運びに時間を取られており。また本人達もこれでいいと思っているようなところがありました。事務職の負担を減らすことで、看護師達には、患者さんへの問診や患者さんへの説明など、専門職としての仕事

に集中して欲しいという思いがありました。二つ目は、情報の共有です。これまでの紙カルテは、診療終了後にすぐに片付けられてしまい、振り返られることがほとんどありませんでした。電子カルテ化により、気になる患者さんは全ての職員で情報共有がしやすくなると考えました。最後は、臨床研究です。紙カルテと違い、格段に研究がしやすくなります。何もしないまま3年が過ぎてしまいましたが、これで言い訳ができなくなりました。最初は、私の父(院長)は電子カルテ化に大反対だったのですが、相原雄幸先生がクラウド電子カルテを私にすすめてくださっていること, 東北大震災の時に、クラウド電子カルテの医院の方が紙カルテの医院よりも被害が少なかったということやIT導入補助を受けられる可能性があることを話したところ、導入を検討してくれるようになりました。それが2020年の9月頃です。さあ、いざ進めというところでしたが、新型コロナウイルス感染による経営状態が悪化しており、資金的には厳しい状況でした。そこで、まずはコストの安い、メドレー社のデモを受けることにしました。メドレーの電子カルテは、やや使いづらそうと思いましたが、説明に来てくれたスタッフが会社に誇りを持っていることは好感が持てました。彼はメドレー代表の豊田剛一郎氏の著書「ぼくらの未来をつくる仕事」を置いて帰りました。その時は、メドレーに気持ちが傾き始めていましたが、他社の話を聞く約束をしておりましたので、それが終わってから返事をすることにしました。次に、EMシステムズ社の話を聞きました。導入コストはそれほど高くはなく、また使いやすそうな印象を持ちました。この方も自社に誇りを持っている印象でした。その次に、ユヤマの説明を聞きました。カルテはダントツで使いやすそうだったのですが、コストが高く、IT補助申請を使用しても厳しいと感じました。最後の、クリプラ社は論外で、2分で結論が出ました。当時の当院の経営状況を考えるとメドレー社が妥当であったのですが、豊田剛一郎氏の著書を読み、彼に対して「調子にのっているエリート」という悪い印象を持ってしまいました。約半年後に私の予感が正しかったことが証明されてしまいます。最終的に、IT補助申請が採用されるという条件付きでEMシステムズ社を選択することにしました。

 私は正直IT補助申請を甘く見ておりました。採択率が20%と聞いた時も、これまでも研究費申請などの書類は作成してきているしと、妙な自信がありました。しかし、結果は「不採択」でした。得られたのは結果のみで、採択されなかった理由は分かりません。これは経済産業省による何らかの忖度が働いているに違いない、と考え撤退しようとしました。しかし、EMシステムズの担当の方の熱意に負けもう1度チャレンジすることにしました。休日に2時間以上かけて一緒に作成と見直し作業を行い、満を持して挑みましたが、結果は、非常にも再び「不採択」でした。

 もう電子カルテは、しばらくはあきらめようと思っていたところ (2021年2月頃だったかな)に、1通のFAXが届きました。内容は、「電子カルテの開発に協力してくださいますか?」という内容でした。協力することで、なんと導入費が無料になるようです。私はワクワクしながら、送り元のB&W社 (現在は株式会社Henry) のホームページ(https://lp.henry-app.jp/)を調べました。役員の方達の経歴が興味深く、また慶應義塾大学の眼科の先生も開発に関わっていることより、話を聞いてみようと思いました。デモに見えた役員の方は、とても感じが良く、好感が持てました。また説明がこれまでの会社の中でも最も分かりやすく、実際に電子カルテも使いやすい印象を受けました。クリニックの経営状況の後押しもあり、慎重な私らしくなく、直感でこの会社の電子カルテの導入を進めようと決心しました。

5月に2度のシミュレーションを行い、6月1日よりスタートしました。初日は修羅場でした。心配していたことが、全て起こり、ある意味想定範囲内でした。システムの一時的な不具合、Wi-Fiがつながらない、などなど。Wi-Fiがつながらなくなった時は、B&W社の方のスマホテザリングで乗り切りました。患者さんをたくさん待たせることになってしまいましたが、診察室ではねぎらいの言葉をかけていただき、地域の方々の優しさが心にしみました。また、従業員より、「紙カルテの方が絶対良かった」など短絡的・批判的な発言はなく、今後に向けた生産的な意見の表出があり、皆の成長を嬉しく思いました。諸問題を解決した上で2日目へ。その日は、サポートなしの予定でしたが、CEOを含めた2人体制で現場の状況を確認してくださいました。幸い大きな問題なく終わりました。シミュレーション時には、1人の患者さんの入力に15分ほどかかり絶望的な状況であった父(院長)からも、徐々に慣れてきて「ハンコより楽だ」という言葉も出てきました。3日目以降も、緊急性のある要件はLINEによるサポートですぐに対応してもらいながら徐々に慣れてきました。当初は1日に10回以上LINEでのやり取りがあったのですが、最近は数日に1回のやり取りとなっております。処方箋も最初は、薬局から疑義照会の嵐でしたが、私も薬局に直接足を運び、謝罪しつつ、現場の薬剤師との対話をもとに、B&W社(現在は株式会社Henry)と一緒に解決策を考えました。現在は、薬局からの疑義照会も紙カルテの時と変わらないぐらいになりました。その他、当院からの要望に対して、いつも急ピッチで対応してくださり、毎週、電子カルテがより使いやすいものに進化していっております。後で聞いたのですが、電子カルテを監修した慶応の眼科の先生の医院を除くと、当院が1件目の導入だったようです。最初は大変でしたが、電子カルテはとても使いやすく、私の意見も反映されるので、今ではIT補助申請が「不採択」で良かったと思えるようになりました。B&W社(現在は株式会社Henry)では引き続き開発に協力してくれる医師を探しております。私と一緒に日本一の電子カルテを作りませんか?(現在は、開発協力募集は終了しているかも)