妊娠と薬剤:喘息について

先日、妊娠と薬剤の総論について記事にしました。今回は、妊娠と喘息の薬剤について

お話していきたいと思います。

 

 

teammanabe.hatenablog.com

 

ポイント🔦

・喘息はまれな疾患ではありません (期間有症率9.4%)

・妊娠中 (特に24~36週)は、喘息が増悪するリスクがあります

・喘息のコントロールが不良だと、妊娠経過や胎児に影響を及ぼす可能性があります

 → 通院し、しっかり管理をしましょう。

・喘息治療の中心は吸入ステロイド薬です。

・気管支拡張薬も使用により早産や胎児発育不全の増加はありません。

 

余力のある人は、以下をご覧ください。

 

喘息はまれな疾患ではありません、2004~2006年に実施された全国調査によると、

20~44 歳における期間有症率 (過去12ヶ月以内に、ぜいぜい、ヒューヒューしたことがありますか?という問いにハイと答えた場合)は、9.4% (男性9.8%, 女性9.0%)で、

喘息有病率 (医師による喘息の診断に加え、喘息症状がある、もしくは抗喘息薬を使用している場合)は5.4%でした。

有症率・有病率|や行|ぜん息の用語集|ぜん息基礎知識|ぜん息などの情報館|大気環境・ぜん息などの情報館|独立行政法人環境再生保全機構

 

【妊娠が喘息に及ぼす影響】

・喘息のコントロールが不良であった場合、健常妊婦に比較して、早産, 低出生体重児, 先天異常の頻度が高くなります→ 妊娠中の喘息の管理は重要

・喘息は妊娠24~36週に最も悪化し、その後の症状や気道過敏性は改善します。

・出産後は元の状態に戻りますが、次の妊娠でも同じ経過を辿ることが多いようです

・しっかり管理すれば、妊娠中のコントロール悪化を防ぐことは可能です。

 

【妊娠中の喘息治療】

1.吸入ステロイド薬 (ICS) 

これが第1選択薬になります。どのICSも使用できるが、ブデソニド (パルミコートR) が使われることが多いです。

2.気管支拡張薬

発作時に外来で吸入する気管支拡張薬は、先天異常や早産, 発育不全など周産期リスクとは関連は示唆されておりません。吸入ステロイド薬/気管支拡張薬合剤 (アドエアR, レルベアR, シムビコートRなど)も同様です。

テオフィリンは死産率の増加はないが使用を控えたほうが無難と思われます。

3.抗ロイコトリエン受容体拮抗薬 (オノンR, シングレアR,キプレスR

大規模な疫学研究が少なく、今後の日本人のデータの蓄積が必要です。

4.ステロイド薬の全身投与 (経口・静注)

妊娠初期の場合、口唇口蓋裂が増加するという報告があります。妊娠18~20週以降であれば、大部分が胎盤を通る際に不活化され、ほぼ影響がないとされています。

 

当院では、喘息のコントロール状態の客観的指標となる呼気NOの測定や簡単な相談であれば副院長が対応可能です。(重症な方は呼吸器内科の先生にご紹介します)

 

参考文献

1.駒瀬裕子,他.喘息と妊娠. 日本医師会雑誌, 148 (2) , 221-223, 2019. 

2.喘息予防・管理ガイドライン2018

【大流行中】 RSV感染症について~過去記事のリメイク

1.RSウイルス (以下RSV) 感染症とは

・乳幼児に肺炎や細気管支炎などを引き起こす最も頻度の高い原因ウイルスです

生後1歳までに半数以上が2歳までにほぼ100%が初感染を受けます

・そのうち30~40%が気管支炎・肺炎に至り、1~3%が重症化し入院を要します

早産児, 先天性心疾患を有する児や生後3ヶ月未満の乳児は重症化しやすいです

流行は、夏頃より始まり、初秋にピークを迎える (高温かつ多湿の条件で流行)

・無呼吸 (乳児期早期) の併発や中耳炎 (主に2歳未満) を合併することがある

 

2.RSV感染後の経過

最初の2~3日はカゼ症状。その後悪化し、3,4日目~7,8日目が症状のピークで、その後、数日~1週間の間に快方に向かいます

受診時の病日と症状・呼吸状態により、今後の見通しについて説明させていただいております。例えば、発症2日目の時点での受診の場合は、今後症状がさらに重くなっていく可能性があります。逆に、発症6日目であればこれから軽快していくことが期待できます)

軽快後も、感冒時に、喘鳴(ゼーゼー)を繰り返すことがあります。

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3.RSV感染症の治療

RSVに対する特効薬はありません

・解熱剤や去痰薬など対症療法を行いながら、自然軽快を待ちます

・元々、気管支喘息を有する児は、気管支拡張薬の吸入やステロイド内服が有効な事が あります。

 

4.RSVの感染様式と拡大防止策

登園目安は、「呼吸器症状が消失し、全身状態が良いこと」 (保育所における感染症ガイドラインより) 

完全に咳嗽がなくなるまでとすると、いつ登園できるのかわからなくなってしまいます

す。咳嗽がほとんど気にならなくなれば良いと思います。判断に迷う場合は、登園を考える前に受診していただければと思います。

接触感染あるいは飛沫感染により伝播する。

RSVのヒトへの主な感染経路は、眼と鼻である。

・皮膚やテーブルに付着後でも最大8時間生存可能であり、汚染された手により感染が 拡大する

・感染予防には手洗いと手指のアルコール消毒が重要 (アルコールはRSVの感染性を消失させる)

 

以下の状況になったらすぐに再受診をしましょう

・ぐったりして、水分摂取ができなくなった時

・咳き込み嘔吐が目立つとき

・咳嗽により眠れなくなった時

・呼吸が苦しそうな時 (呼吸数が増え、右図のような呼吸)

   連日、裸の状態で呼吸を観察していくと変化がわかりやすいです

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6/1(火)より電子カルテを導入します

6/1 (火) より電子カルテを導入します!

最初は、紙カルテの時と大きく診療の流れが変わってくるので戸惑いがあると思います。また、電子カルテの入力に手間取る場合もあるかもしれません。

最初の1~2週間は、お待たせする時間が長くなる可能性があります。ネコの目

まなべ小児科クリニックの混雑情報|ネコの目.com を参考に混雑の時間帯を避けていただくなどご協力をお願いいたします。

しかし軌道に乗ってきたら、スタッフと患者さんの向き合う時間を増やし、より幅広くかる良質なサービスを提供できると思っております(そうならなければいけないと思います)

しばらくの間、ご迷惑をおかけすることがあるかもしれませんが、ご容赦くださいますようお願いいたします。

2021年6月1日 (火)より火・金のカゼ症状なしの時間帯を変更します

昨日は、久しぶりの天気の良い日でしたね。今年は梅雨が早く始まりますね。その分、早く終わるといいのですが・・・。

気象庁|令和3年の梅雨入りと梅雨明け(速報値)

 

さて、6月1日 (火)より火・金のカゼ症状なしの時間帯を変更することとしました。

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花粉症を中心としたアレルギーでの受診が大幅に減少し、その一方でカゼの患者さんが増加しているため、元に戻すことにしました。

5/17~22の週は、ウイルス性胃腸炎と乳幼児のRSウイルス感染症が多かったです。

患者さんの動向により、また柔軟に変更していく方針です。

ご不便をおかけすることがあるかもしれませんが、ご理解・ご協力のほどよろしくお願いたします。

新型コロナワクチン2回目接種後 (続報です)

ブログのネタがないわけではありません。ここ最近、外来で患者さんから新型コロナワクチン接種後の副反応について質問をいただくことが多く、しつこいかな?と思いつつ、5/19 (水)に接種した4名を追加し、記事にすることにしました。 

 

接種後の状況は以下です。

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1回目接種後は、疼痛8/9 , 倦怠感3/9に対し、2回目接種後は、発熱 3/9, 疼痛9/9, 倦怠感3/9 でした。全体で見ると、2回目の方が、副反応が強いですね。しかし、4名は1回目の方が症状は強かったです。

どのスタッフも昨日は元気に勤務しておりました💪 

 

副反応をしのぐポイントとしては(一部私見ですが)

・前日は睡眠をしっかりとりましょう

・1回目は利き腕、2回目は利き腕とは反対に接種が良いかもしれません

・解熱鎮痛薬は準備しておきましょう

・痛みが強い時は、「これで免疫がつくんだ」「まだ若い証拠さ」と考えましょう

お母さんからの質問:妊娠中ですが服用しても大丈夫でしょうか?

当院では、新型コロナ感染拡大対策として、ご希望があれば保護者の方のカゼ症状の診療も行っております。その際に、「妊娠中ですけど・・」「授乳中ですけど・・」という質問をいただくことが少なくありません。そこで、今回、妊娠・授乳と投薬についてお話します。

 ざっくりしたポイントは、

・日本は過去の事件より妊婦さんへの薬剤投与の規制が非常に厳しく、良い面もあるが、悪い面もあります。

・薬剤の使用に関係なく、15%が流産、3~5%が先天異常を自然発生することを知っておきましょう。

・妊娠4~12週までは催奇形性に注意しないといけない時期です。

・授乳に関しては大部分の薬剤が服用可能と思われます。

・薬剤に関して不安なことがあれば妊娠と薬情報センターへ相談を

妊娠と薬情報センター | 国立成育医療研究センター

 

余力のある方は、ぜひ、以下をご覧ください。

 

【日本の現状について】

日本は、米国と比較して妊婦さんへの薬剤投与の規制が厳しくなっております。

調査した403の薬剤のうち、日本では102剤 (約1/4)が妊婦禁忌薬だったのに対して、米国では18剤のみだったという報告があります。

その背景の1つにサリドマイド事件があります。

サリドマイド事件とは https://www.gaiki.net/yakugai/ykd/lib/thalidomide_sato.pdf

わが国の動物を用いた毒性試験は厳格で、動物実験で催奇形性が認められた場合、曝露量 (投与量)に関わらず、「妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与しないこと」と記載されることになっています。例えば、動物実験を臨床用量 (実際に治療で使う量)の100倍, 300倍, 1000倍で実施したとします。300倍までは問題なく、1000倍でのみ催奇形性が疑われた場合でも。添付文書には「投与しないこと」と記載されてしまいます。また、新薬は販売後、妊娠に気づかず服用してしまった方のデータ、つまりヒトでのデータが集まってきますが、それで、胎児への影響が認められなくても、添付文書が改訂されません

そのため、持病がある治療薬を服用中の方が、妊娠可能にもかかわらず、避妊を指導されたケースもあるようです。また、妊娠に気づかずに感冒薬を服用してしまい、誰にも相談できず、1人で悩みを抱えている方も少なくないようです。

 

【妊娠時期と薬剤の児への影響】

薬剤の使用に関係なく、15%が流産、3~5%が先天異常を自然発生します。

妊娠4週まで:全か無かの時期

 影響が大きければ流産、小さければ修復可能で、形態異常の可能性はないと考えられています。

妊娠4~12週まで:催奇形性に注意しないといけない時期

骨格や器官ができる時期なので注意を要します。

13週以降~薬剤によっては胎盤より胎児に移行し、臓器を含めた成長発達に影響を  与える可能性があります。

不安になった場合

妊娠と薬情報センターへ相談を 妊娠と薬情報センター | 国立成育医療研究センター

産科ガイドラインからも情報が得られます

http://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2020.pdf

CQ104 (p.60~) に、妊娠初期、妊娠中期など期間ごとに催奇形性, 胎児毒性を示す代表的医薬品が表になって記載されています

 

【授乳について】

・日本の添付文書では、薬剤が乳汁中に分泌されるデータがある場合は、新生児への有害事象の有無にかかわらず授乳中止とされています。

・しかし、放射性物質, 抗がん剤, 一部の抗てんかん薬, ヨード製剤などを除けば母乳栄 養との両立は可能です。

M/P比 (乳汁/血漿薬物濃度):乳汁中に出やすいかどうかの指標が低い、つまり乳汁中に殆どでなければ、母乳栄養が可能です。

・M/P比が高い (=乳汁中への移行率が高い)場合でも、RID (relative infant dose:相対的乳児投与量) となると少なくなります。授乳可能の目安のRIDは10%未満です。

 

参考書籍

日本医師会雑誌 2019年5月号

保育士さんからの質問:伝染性軟属腫 (水いぼ)は園ではどのように対応すると良いのでしょうか?

先日の保育園健診で伝染性軟属腫 (水いぼ)への対応も話題になりました。この機会に解説させていただこうと思います。

まずは結論から。当園は可能。プールについては○、ただし、ビート板やタオルの共有は✗

良かったら下の解説with私のコメントも御覧ください。

 

伝染性軟属腫とは】

ポックスウイルス感染症により起こる、小児の皮膚感染症です。発症から6か月から1年の間に大部分が自然治癒します

・最終的には、自然治癒する一方で、途中経過で拡大傾向や他児への伝染の可能性があ

ります。

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https://amagadai-fc.com/mizuibo_mainpage/ より引用

治療方法は?

当院での治療の選択肢は、1)経過観察, 2) 取り除く,  3) ヨクイニンの内服になります。

小児科医は経過観察をする場合が多いと思います。ただし、アトピー性皮膚炎のある場合は悪化の注意しないといけません。掻くことで、水いぼが広がっていく可能性があります。保湿薬とステロイド軟膏でアトピー性皮膚炎の管理をしっかりするよう保護者の方にお話しております

ピンセットを使用しての摘出は、患児にとって苦痛を伴い、またへこんだ跡が残る可能性があります。このことより、皮膚科医でも、最近は経過観察を選択する先生が増えています。

ヨクイニンの内服についてはいくつか報告がありますが、効果は明らかではありません。私自身、以前は、「こんなの効かないよ~」と言っていたのですが、5年ほど前に処方を強く希望した患者様がいて、処方したら劇的に効いたということがありました。それで、ヨクイニンに興味を持ち調べてみました。

以下、ヨクイニンの効果に関する報告です。

1) 24名中20名が発病から6か月未満であった。21例が治療開始から4か月以内に治癒した。(児玉義史, 日本小児科医会会報 2016)
2) ヨクイニンを服用したグループを服用したグループで効果を比較。全体では差がなかったが、アトピー性皮膚炎を有する児に限定するとプラセボ群と比較し、有意に効果があった。 (ヨクイニンエキス散研究班, 皮膚1987)

確かに、原因は分かりませんが、アトピー性皮膚炎の男児に特に効果があるな~と外来でも感じております。

【園での生活について】

登園登校は可能です。

・夏季のプールは現状では、園により対応が異なっております。

プールの水を介して感する可能性は低いと考えられており日本皮膚科学会は、ビート版, 浮き輪やタオルの共有を避ける必要はあるが、プールを禁止する必要はないとコメントしております。

プール後は、シャワーで体をあらに流しておきましょう。

https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/news/G20160519_20130524_01.pdf