今日は、幼稚園児のお母様からの質問「胸がへこんでいるんですけど」に回答いたします。これは、漏斗胸ですね。今は経過観察。小学校に入ったら手術を検討が一般的ですが、自費診療の比較的新しい治療もありますので、そのお話もしていきますね。
📖漏斗胸とは?
胸郭変形疾患で、胸に凹みのある状態です。発生頻度は300~1,000人に1人程度とされています。男女比は3~4:1で男子に多く、多くは乳児期に指摘されますが、成長とともに進行することが多いです。
📖症状は?
小学生の頃までは自覚症状をないことが多いですが、かぜをひきやすい、喘息発作が起きやすいなどのエピソードを認めることがあります。
高学年になると、胸痛や違和感, 運動時の息切れや易疲労感 (例.部活やマラソンなどで他児より早く息があがりついていけない)を訴えることがあります。見た目に悩む場合もあります。
📖治療は?:生活指導, 手術, 陰圧吸引療法
漏斗胸が自然軽快することは少なく、多くは成長につれて増強します。
1) 生活指導
・肺活量の増加が改善に寄与するという着想から、水泳, ダンス, 体操などがすすめられ ることがあります
・胸を張った姿勢を保つことが重要です (逆に猫背は胸のへこみを悪化)
2) 手術
以前は、変形した骨を切除する手術でした。1998年にNussらより、両側胸部に2cmの皮膚切開を置き、腹腔鏡を用いて金属バーを挿入し、胸骨を挙上して固定する。そして、
2~4年後にバーを除去するという方法(Nusss手術) が発表されました。この方法は、侵襲が低くかつ効果があったので、普及し現在の標準術式となっています。
手術時期としては、10歳以降が推奨されます。10歳にならないうちにバーを除去した患児のなかに成長期に漏斗胸が再発する症例が存在することが明らかになったためです。
その一方で、手術年齢が高くても治療効果が不十分となりやすくなります。13歳以降で肋軟骨の骨化が始まり胸郭が硬くなり、手術の治療効果が乏しくなることが報告されています。以上より、10~12歳が手術に適した時期と考えられます。
手術の注意点としては、
・全身麻酔下での手術が2回必要
・入院期間は1週間
・術後数日間は持続硬膜外麻酔が必要 (それでも痛みはかなり強い)
・3ヶ月間は運動制限が必要
・バーによる異物感染, 金属アレルギーの発症やバーの偏位(これはまれ)などが
起こりうるので定期的な外来フォローを要する
などです。
3) 陰圧吸引療法 (vacuum bell療法)
非侵襲的治療として2005年に開発されました。胸にvacuum bellとよばれる大きな吸盤を装着し陰圧をかけることで、へこんだ胸を持ち上げる治療法です。
6歳頃より開始し1日1~2時間の装着を毎日3年以上続けることがのぞましいとされています。
効果ですが、Haecklerらは漏斗胸患者34人にこの治療を行い、3ヶ月後で27人が胸骨が1.5cm以上持ち上がり、1年後には5人が正常化したと報告しております5)。彼らは、
さらに症例を133例で増やし左右対称で軽度の漏斗胸で特に有用であったと報告しています6)。
手術よりも、安全性は高く、副作用は数時間で消失する皮下出血や胸骨の痛みなどです。しかし、治療効果は手術よりもおとり、個人差が大きいです。
また、現時点で保険適応になっておらず自費診療となります。
vaccum bell自体の価格は11万円のようですね
まとめると下表にようになります。
📖治療はどこで受けられるの?
漏斗胸の治療は神奈川県内では聖マリアンナ医科大学が熱心にやっていそうですね
おそらく三ツ境の西部病院でも治療は可能だと思います。
漏斗胸外来|聖マリアンナ医科大学病院 (marianna-u.ac.jp)
その他、北里大学, 東海大学や神奈川県立こども医療センターなど小児外科のあるところでは
対応可能と思われます。
参考文献
1.吉田 篤史, 他.【外来で役立つ知識:頭頸部・体幹・四肢の疾患】漏斗胸、鳩胸, 小児外科. 2022.54:40-43.
2.大浜 和憲, 他.漏斗胸に対するバキュームベルを用いた陰圧吸引療法の効果 胸部X線写真による評価, 小児外科. 2021.10:1095-1101.
3.古橋 七海,他. 【子どものコモンな微徴候・微症状】整形外科 軽度の漏斗胸, 小児科. 2021.09:1191-1196.
4.中岡 達雄, 他.【見て,聞いて,触って,五感で診る新生児の異常とその対応】先天性胸壁異常, 周産期医学. 2022.10:1380-1383.
5.Haecker FM,Mayr J: The vaccum bell for treatment of pectus excavatum : an alternative to surgical correction? Eur J Cardthorac Surg29:557-561.2009
6..Haecker FM: The vaccum bell for conservative treatment of pectus excavatum; the Basal experience. Pediatr Surg Int 27:623-627,2011