学校健診の歴史

すべての子どもが学校で、無償で健康診断を受けられる「学校健診」は、100年以上の歴史のある、わが国独特の制度で、国際学会の場では、多くの国の人達が関心を示すようです。今回は、皆さんと一緒に学校健診の歴史を振り返ってみたいと思います。

健診制度は、1888年 (明治21年)に、一部の学校のみで、体操の効果判定を目的とした「活力検査」が実施されたのが始まりとされています。その内容は、体力テストに近く、身長, 胸囲の他に、握力, 肺活量などが測定されました。その後、1898年に学校医が配置され、1900年より、全国の公立小学校で行われるようになりました。内容も、体力検査的な項目が廃止され身体測定値と疾病の有無等を評価する「学校身体検査」へと変わりました。当時は、とにかく体格の大きな子どもを選択的に抽出するという単純な考えに基づき、児童・生徒を強健・中等,・薄弱や甲・乙・丙に区分するなど、体格判定が重視されていました。

1937年 (昭和12年)より、学童の身長平均値が年々大きくなることは将来の日本人の体格がより大きくなることを意味するという考えより、年齢, 性別毎の身体測定平均値が重要視されるようになりました。また、座高が高いと内臓諸臓器が強いという誤った考えに基づき、座高測定が導入されました。

1958年には、戦後の非衛生的生活の改善により、結核や栄養失調はほとんど姿を消し、心臓病, 喘息, 腎臓病, 糖尿病などの疾患に注意が向けられるようになり、身体検査は現在の「健康診断」に名称が変わりました。その後、1973年より尿検査が始まり、当初はタンパク尿と潜血, 後に糖が追加されました。

1994年 (平成6年)より、胸囲測定の廃止や歯科での「要観察」「定期的観察」判定の導入など変更がありました。また、「児童生徒の健康診断マニュアル」が誕生しました。

2009年に学校保健法の一部改正により「学校保健安全法」が施行され、学校安全に関する記述が増加しております。その後、2016年度より、1)座高検査および寄生虫卵検査の必須項目からの削除, 2)運動器検診の開始, 3)保健調査の提出が「入学時と必要時」から「全学年」となるなどの変更があり、現在に至っています。

座高は、ほとんど活用されておらず、削除によるこども達の健康管理への支障が全くないことより必須でなくなりました。それよりも、個々の発育の評価には、身長曲線・体重曲線が重要であり、その活用が推進されています。しかしすでに、病的な問題がなくても、異常と判定される児が多いなどの問題が報告されており、研修会の開催などの対応策が求められています。

運動器健診は、1) 隠れた運動器疾患(側弯症, 発育性股関節形成不全など)の発見 2) 運動過多による障害 (野球肘や脊椎分離症など), 3) 身体の固い子を見つけ出し、発生件数が1970年代と比較し3倍以上に増えている、児童生徒のケガや骨折を予防することが目的で開始されました。日本整形外科学会が行った平成28年度のアンケート調査によると、検診後に医療機関を受診した10,256名のうち、異常なしが4,148人で、異常ありは側弯症が3,853人, 体の固さ由来の上肢下肢拘縮1,079人の順に多いという結果でした。

学校健診の、時代の流れに伴う変化を感じていただけましたでしょうか。学校健診を現在のこども達の疾病や異常の発見と早期対応だけでなく、未来のこども達の健康づくりのために役立てていただけると幸いです。

 

参考文献

  1. 衞藤 隆. 教育と医学 2018; 66: 516-523.
  2. 村田 光範. わが国における学校健診の体格評価の変遷と成長曲線の活用. 日本成長学会雑誌 2018; 24: 7-22.
  3. 奥村 栄次郎. 学校における運動器検診の結果と課題. 東京小児科医会報 2018; 37: 42-44.

ACイラストよりダウンロード