お母様からの質問 「就学前の3種混合ワクチンは接種した方がよいですか?」

 先日の外来で、お母様より、「就学前の3種混合ワクチンは接種した方がよいですか?」と質問をいただきました。これは、3種混合ワクチン (百日咳, 破傷風, ジフテリア) の中の百日咳に対する免疫を目的にしております。

 まずは、回答ですが、0~1歳時に4回接種した4種混合ワクチンの免疫は就学前には減弱することが知られております。1) 本人への感染予防2) 重症化リスクの高い、周囲の生後6ヶ月未満児への感染予防 の2つの目的で接種をおすすめしております。

 

以下、詳しく解説していきます。よかったらお付き合いください。

 

🚀接種の概要は?

20188に、学童期以降の百日咳とポリオに対する免疫を維持するために、就学前

3種混合ワクチンの接種が不活化ポリオワクチンとともに日本小児科学会より推奨されました。現在は、任意接種 (自費)で、当院では4,000円で接種させていただいております。なお、就学後の接種も可能です。

 

🚀百日咳とは?

百日咳とは、百日咳菌 の産生する毒素 (pertussis toxin :PT) によって引き起こされる感染症です。名前の通り、無治療だと咳が100日間続きます。咳は特に乳児で、発作性の咳き込み、吸気性笛声、咳き込み後の嘔吐をみとめます。発作性の咳き込みは、5~10回以上続く、連続的な咳き込みです。吸気性笛声は、大きな努力性吸気が狭くなった声門を通過する音です (動画:Infant girl with whooping cough - YouTube)症状は、夜間に強く、チアノーゼ、無呼吸、まぶたの腫れもみとめます。生後3カ月未満は重症化しやすく、約50%が無呼吸、1%が痙攣、死亡します。

 潜伏期は約7~10日です。2018年1月1日から全ての医師が全ての診断例の届出を行う5類全数把握対象疾患へと 変更されました。

 

🚀0~1歳時に予防接種を受けているのに、どうして追加が必要なの?

まずは、2019年の国立感染症研究所のデータを紹介します。全国より報告された、百日咳患者15,974人の年齢の内訳ですが、5歳以上15歳未満が63%を占めています。

 

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5歳以上15歳未満例のうち、全4回のワクチン接種歴があるのは81%でした。

なぜかというと、ワクチンの効果は4~5年で減弱していくからです。

 

🚀 小学生は重症化しにくいと思うのですが、必要でしょうか?(目的1)

 小学生以上でも、咳嗽により、長期間の学校欠席を要したり、強い症状を認めることがあります。実際に2019年に、当院で2例の小学校高学年の児が2週間以上の欠席を余儀なくされました。年長児で無呼吸発作を起こした症例の報告もあります2) 。また、私自身、2008年に頻回の咳嗽により眼球出血をきたした例を報告し、就学前の3種混合ワクチンの追加接種について言及しております3)。いずれのケースも0~1歳児の百日咳ワクチンをスケジュール通りに接種しております。

 

🚀リスクの高い生後6ヶ月未満児への感染予防について(目的2)

上図をみると重症化リスクの高い生後6ヶ月未満が5%となっております。

感染経路としては、家族内が多く、兄弟からが38%を占めています。

ワクチンの効果が弱まった5~15歳に感染→リスクの高い生後6か月未満に感染が一定の割合で起こっているといえます。

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 なお、海外では妊婦さんへの3種混合ワクチン接種などの取り組みも行われています

 

参考資料

1)全数報告サーベイランスによる国内の百日咳報告患者の疫学(更新情報) -2019年疫学週第1週~52週-

2)石川真紀子.他:10代の百日咳感染による窒息様無呼吸発作に対してフェノバルビタールが奏功した2例. 小児感染免疫 32: 215-219.2020.

3) 真部哲治, 他. 両眼出血を呈した百日咳の1例. 日本小児科学会誌2008; 112 (6); 1002-4.