お母様からの質問「就学前の不活化ポリオワクチン接種について教えてください」

 先日、外来で、お母様より、「就学前の不活化ポリオワクチン接種はどうでしょうか?」と質問をいただきました。

 まずは、回答ですが、0~1歳時に4回接種した不活化ポリオワクチン(4種混合に含まれる)の免疫効果は、年数の経過とともに弱くなっていきます。リスクは少ないかもしれませんが、海外よりポリオがもちこまれる可能性は常にあるので、追加接種をおすすめしております。なお、就学後でも接種は可能です。

 

🔑接種の概要は?

20188に、学童期以降の百日咳とポリオに対する免疫を維持するために、就学前

不活化ポリオワクチンの接種が3種混合(百日咳, ジフテリア, 破傷風)とともに日本小児科学会より推奨されました。現在は、任意接種 (自費)で、当院では8,500円で接種させていただいております。なお、就学後の接種も可能です。

 

🔑ポリオとは?

ポリオとは、ポリオウイルス感染によるもので、大部分は無症状ですが、手足に麻痺が出て、重症になれば呼吸筋の麻痺により呼吸ができなくなり死亡するおそれのある病気です。命が助かっても、麻痺が残る可能性があります。現時点で、治療法はなく、ワクチンが唯一の予防法です。

 

🔑どうして追加接種が必要なの?

わが国では2012年 (欧米では1990年代後半)よりポリオワクチン がワクチン関連麻痺の

問題から、経口生ポリオワクチン→不活化ワクチンに切り替えられました。経口生ワクチンは長期にわたり免疫が維持されるのですが、不活化ポリオワクチンの予防効果は経年的に減弱する可能性があります。

https://www.kitano-hp.or.jp/wp-content/uploads/2012/07/288a0623549402ccf968cc1ada0c2f59.pdfより引用

 4歳以降に追加接種すると、ある程度長期間にわたって免疫を維持できることが示唆されており1)、欧米諸国の多くは4歳以降に追加接種が実施されています。

 

🔑でも、ポリオってまれじゃないの?

 ポリオ患者は、主にアフリカなど政情が不安定な地域で発生しておりますが、2019年に、日本への入国者数の比較的多い、フィリピンで17例の発生が報告されました2)

また、2022年7月にニューヨーク州のロックランド郡でポリオ患者の発生がありました3)。この症例のポリオウイルスはワクチン由来の2型ポリオウイルス(生ワクチンのセービン株由来)でしたが、6月にロックランド郡の下水より採取した献体と一致しているようです。さらに、驚くことに、ロンドンやイスラエルの下水で採取されたサンプルと遺伝子型が関連しているようです。この方のロンドンやイスラエルへの渡航歴が無い事から、国を跨いで広範囲にポリオウイルスが循環しているものと推察されます。

State Department of Health Updates New Yorkers On Polio In New York State (ny.gov)

 わが国には近年ポリオ患者の報告はありませんが、海外からの人の流入が増えると、いつ国内にポリオウイルスが入ってきてもおかしくありません。実際に、国内でも2016年に下水より検出されております4)

 

🔑まとめ

経口ワクチンによる免疫は生涯持続しますが、皮下注射による免疫は経年的に弱くなります。今は、経口ワクチンによる生涯免疫の方が大部分ですが、現行の4種混合スケジュール(0歳の3回+1歳の1回) のみだと、20~30年後にはポリオに対する免疫が弱くなっている方が増えてくる可能性があります。その状況で海外からポリオが持ち込まれると、集団発症するリスクもありえます。こうしたことから小学校入学前の追加接種をいおすすめしております。

 

 

参考資料

1.Bottiger M. Polio immunity to killed vaccine: an 18-year follow-up. Vaccine 1990; 8: 443

2.WHO. Polio Outbreak in the Philippines – Situation Report 16

https://www.who.int/docs/default-source/wpro---documents/countries/philippines/emergencies/polio/unicef-who-phl-sitrep-16-polio-outbreak-19feb2020.pdf?sfvrsn=c9386320_2

3.State Department of Health Updates New Yorkers On Polio In New York State (ny.gov)

4.平成28年度ポリオ環境水サーベイランス(感染症流行予測調査事業および調査研究)にて検出されたエンテロウイルスについて (niid.go.jp)