当院は小児科であるため、妊娠中・授乳中のお母様より、「妊娠中ですけど・・」「授乳中ですけど・・」という質問をいただくことが少なくありません。
そこで、今回、妊娠・授乳と投薬についてお話します。
ざっくりしたポイントは、
・日本は過去の事件より妊婦さんへの薬剤投与の規制が非常に厳しく、良い面もあるが、悪い面もあります。
・薬剤の使用に関係なく、15%が流産、3~5%が先天異常を自然発生することを知っておきましょう。
・妊娠4~12週までは催奇形性に注意しないといけない時期です。
・授乳に関しては大部分の薬剤が服用可能と思われます。
・薬剤に関して不安なことがあれば妊娠と薬情報センターへ相談を
余力のある方は、ぜひ、以下をご覧ください。
【日本の現状について】
日本は、米国と比較して妊婦さんへの薬剤投与の規制が厳しくなっております。
調査した403の薬剤のうち、日本では102剤 (約1/4)が妊婦禁忌薬だったのに対して、米国では18剤のみだったという報告があります。
その背景の1つにサリドマイド事件があります。
サリドマイド事件とは https://www.gaiki.net/yakugai/ykd/lib/thalidomide_sato.pdf
わが国の動物を用いた毒性試験は厳格で、動物実験で催奇形性が認められた場合、曝露量 (投与量)に関わらず、「妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与しないこと」と記載されることになっています。例えば、動物実験を臨床用量 (実際に治療で使う量)の100倍, 300倍, 1000倍で実施したとします。300倍までは問題なく、1000倍でのみ催奇形性が疑われた場合でも。添付文書には「投与しないこと」と記載されてしまいます。また、新薬は販売後、妊娠に気づかず服用してしまった方のデータ、つまりヒトでのデータが集まってきますが、それで、胎児への影響が認められなくても、添付文書が改訂されません。
そのため、持病がある治療薬を服用中の方が、妊娠可能にもかかわらず、避妊を指導されたケースもあるようです。また、妊娠に気づかずに感冒薬を服用してしまい、誰にも相談できず、1人で悩みを抱えている方も少なくないようです。
【妊娠時期と薬剤の児への影響】
・薬剤の使用に関係なく、15%が流産、3~5%が先天異常を自然発生します。
・妊娠4週まで:全か無かの時期
影響が大きければ流産、小さければ修復可能で、形態異常の可能性はないと考えられています。
・妊娠4~12週まで:催奇形性に注意しないといけない時期
骨格や器官ができる時期なので注意を要します。
・13週以降~:薬剤によっては胎盤より胎児に移行し、臓器を含めた成長発達に影響を 与える可能性があります。
・不安になった場合は
妊娠と薬情報センターへ相談を 妊娠と薬情報センター | 国立成育医療研究センター
・産科ガイドラインからも情報が得られます
http://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2020.pdf
CQ104 (p.60~) に、妊娠初期、妊娠中期など期間ごとに催奇形性, 胎児毒性を示す代表的医薬品が表になって記載されています
【授乳について】
・日本の添付文書では、薬剤が乳汁中に分泌されるデータがある場合は、新生児への有害事象の有無にかかわらず授乳中止とされています。
・しかし、放射性物質, 抗がん剤, 一部の抗てんかん薬, ヨード製剤などを除けば母乳栄 養との両立は可能です。
・M/P比 (乳汁/血漿薬物濃度):乳汁中に出やすいかどうかの指標が低い、つまり乳汁中に殆どでなければ、母乳栄養が可能です。
・M/P比が高い (=乳汁中への移行率が高い)場合でも、RID (relative infant dose:相対的乳児投与量) となると少なくなります。授乳可能の目安のRIDは10%未満です。
参考書籍
日本医師会雑誌 2019年5月号