今日は、先日、外来で幼児のお母様よりいただいた「帰省するのですが車酔いが心配です?」について回答します。
今年は行動制限がないため、帰省される方が多いようですね。外来でお話を伺っていると、北は北海道、南は沖縄までいらっしゃるようです。長時間のドライブとなる方もいらっしゃるようなので今日は車酔いについてお話させていただければと思います。
少しでも快適な旅をする一助となれば幸いです。
1.乗り物酔い (動揺病)とは?
乗り物酔いとは、乗り物による動揺(揺れ)が原因で、顔面蒼白, 悪心・嘔吐, 冷や汗, 動悸, 血圧低下などの自律神経症状が発現する状態です。乗り物の種類により、車酔い, 船酔い, 空酔いと呼ばれます。また、乗り物だけでなく、ゲームや映画など視野を大きく占める動画を見たときに起こることがあり、これらを総称して動揺病と呼びます。
2.どうして乗り物酔いが起こるの?
人の脳は、自分と周囲との関係を常に、下図のように捉えており、この空間認知が常に更新されることで、空間の中を安定して動くことができます。
しかし、日常あまり受けることのない刺激が入ってくると、脳の感覚が混乱を起こします。例えば、船で、波のように揺れているように見えるのに、実は体は大きく上下運動をしていたり、映画やゲームでは、眼が動くものを追いかけていることで、自分が動いているような錯覚に陥ります。
こうした状況で、大脳が異常と判断し、危険信号を発信します。それにより、前述した自律神経症状が出現するとされています。
3.何歳まで続くのでしょうか?
0~3歳頃までは、内耳機能, 視覚機能, 深部知覚機能からなる平衡覚機能が未発達であるため、乗り物よいすることはほとんどありません。平衡覚機能が発達し始める、4~12歳に、小中学生の30~40%にみとめ、女子>男子とされています。それ以降になると、年齢と知に、様々な加速度刺激を体験し、刺激に対する慣れが生じるので、ほとんど乗り物酔いしなくなります。成人では慣れない乗船や体調不良以外ではまれであります。
4.乗り物よいへの対処法
(1) 揺れの少ない条件を選ぶ
・車外前方の景色が見える席は、車の動きを予測し体を傾けられるため、
頭の揺れを減らす。バスは前から4,5番目, 船なら中央に近い位置、飛行機なら翼の上が揺れが少ない
・車ならカーブの多い道を避ける
(2) 眼(視覚)と耳(前庭感覚)の不一致を減らす
・遠くの景色を見ると、頭が揺れても視線が安定した状態が保たれる
・その一方で、本を読むと、乗り物の揺れで頭と本は別々に揺れ、頭の揺れを感じる前庭感覚と、視覚の揺れの不一致は最大となる。
・外が全く見えない場合は、近くをずっと見るより、眼を閉じる
・頭を背もたれにつける。できればより低い位置につけたほうが頭の揺れは少ない
(3) 体調や環境を整える
・睡眠不足の時や非常に空腹や満腹な状態は乗り物酔いを発症しやすくなる
・乗り物酔いの嫌な気分はしばしば匂いと結びつけて記憶されている。車内の換気をよくして、匂いがこもらないようにする。
(4) 慣れを促進する
・乗り物酔いを起こさない程度の短く、軽い乗車を繰り返す
・日頃から、ブランコ, シーソー, 自転車など身体の前後・左右・回転などあらゆる
方向の動きになれておく
(5) 発症後の対処法
・乗り物から降りる
・ベルトや衣服をゆるめる
・嘔吐すると嘔気はいったんリセットされるので、嘔気が強ければ我慢しない
・トラベルミン (第1世代の抗ヒスタミン薬+交感神経作用薬の合剤)
成人は1回1錠、1日3~4回、年齢・症状により適宜増減する
小児に関する記載はないが、同成分で5~10歳の小児用として市販されている薬剤
では半量が1回量となっている。
・プロメタジン (ピレチアR) 細粒・錠剤 ※2歳以下、発熱時には禁忌
・ジメンヒドリナート (ドラマミンR 錠剤) ※2歳以下、発熱時には禁忌
・メトクロプラミド (プリンペランR) 嘔吐中枢での閾値を上げる
(7) 薬物療法:市販
スコポラミンという処方では使えない成分が含まれており、処方薬よりも期待できるかもしれません。過量投与にならないように注意しましょう。なお、運転者は眠気を感じるため服用してはいけません。
参考文献
1.宇野 敦彦, 【小児外来:どう診るか、どこまで診るか】よくみられる症状 乗り物酔い(動揺病). 小児科臨床. 2019.08;72(増刊):1295-1297.
2. 石川 洋一, 遠藤 美緒. ここが知りたい子どもの薬(第7回)下痢や吐き気には薬を使うの?乗り物酔いの薬も, チャイルド ヘルス. 2019.03;22(3):213-216.
3.吉田 友英, 【子どもと旅行-より安全に出かけるために】子どもの乗り物酔い対策, 小児科. 2018.07;59(8):1189-1195.
4. 北原 糺, 患者・家族への説明ガイド-正しく伝え,納得を引き出し,判断を促すために】めまいと顔面神経麻痺のこと (Question 26)6歳になるこどもですが,今でも車酔いをします。どうすればよいでしょうか?, 耳鼻咽喉科・頭頸部外科. 2018.04;90(5):86-87.