先日、生後10ヶ月のお子様が、小麦(パン、うどん、そうめん、マカロニ)を摂取した2~4時間後後に必ず嘔吐するを主訴に受診されました。
後で述べる診断基準を満たすかどうかは微妙なラインですが、小麦による消化管アレルギーと思われます。お母様より、今後の見通しについて質問をいただいたので調べて見ました。回答は「小麦による消化管アレルギーの予後に関する情報はまだまだ少ない状況ですが、成長に伴い、治癒していく可能性があります。定期的に食物負荷試験を行い、状況を確認させていただきます」
通常の食物アレルギーは、即時型食物アレルギーといって、原因となる食物 を摂取した2時間以内に、蕁麻疹など皮膚症状, 咳嗽など呼吸器症状, 嘔吐・下痢など消化器症状を認めます 。アナフィラキシーショックという生命にかかわる重篤な症状も稀に起こります。原因食物は多彩で年齢とともに変化します。
それに対して、消化管アレルギーとは、消化管アレルギーとは、被疑食物を摂取して1時間以上経過した後に、嘔吐のみをみとめる、という特殊なタイプの食物アレルギーです。下記が診断の基準となっております。大基準と小基準3つを満たせば診断となります。
大基準
被疑食物を摂取後、1~4時間後に嘔吐する。皮膚・呼吸器の症状は認めない
小基準
1) 被疑食物を摂取後に反復する嘔吐のエピソードを2回以上有する
2)被疑食物とは別の食物を摂取1~4時間後に反復する嘔吐のエピソードを有する
3)被疑食物を摂取後に著しい傾眠傾向・無気力状態
4) 被疑食物を摂取後に顔面蒼白
5) 被疑食物を摂取後に救急受診
6) 被疑食物を摂取後に輸液 (点滴) を要した
7)被疑食物を摂取後に24時間 (多くは5~10時間以内)に下痢をした
8)被疑食物を摂取後に低血圧を呈した
9) 被疑食物を摂取後に低体温を呈した。
(Nowak-Wegrzyn A, et al. JACI, 2017;139:1111-1126)
消化管アレルギーの原因としては、わが国では牛乳が多かったのですが、最近では鶏卵(卵黄)による消化管アレルギーの報告が増えております。予後としては、牛乳は2歳には大部分が耐性獲得 (治癒)する、鶏卵(卵黄)は牛乳と比較すると時間を要するが、多くは耐性獲得するのではないかといわれています。
さて、小麦についてはどうでしょうか?成長とともに治っていくのでしょうか?
国内・海外の文献を調べてみたが、ポツポツと症例報告があるのみです。しかも、
予後に関する報告がない。国内から1件のみ経過を追った症例報告を確認しました。
生後7ヶ月時にうどんを摂取した2時間後に3回の嘔吐をみとめました。生後9ヶ月時に食物経口負荷試験で嘔吐と傾眠傾向をみとめ確定診断されています。定期的に負荷試験を繰り返し、2歳半で耐性獲得(治癒)を確認されています。
後、論文ではないですが、相模原病院からの学会抄録も参考になりました。
小麦によるFPIES8症例の検討(会議録)
西野 誠
日本小児アレルギー学会誌(0914-2649)33巻4号 Page586(2019.10)
8例の報告で、5歳まで経過を追えた4例のうち3例が耐性獲得(治癒)を確認できております。
まだまだ情報は少ないですが、冒頭の患者さんはそれほど重症度が高くなさそうですので、定期的に少量から摂取を開始していく方針で考えております。
消化管アレルギーに関する過去ブログ↓