以前に、外来でお母様より、「第1子が牛乳アレルギーです。第2子がもうすぐ誕生するのですが予防策を教えてください」という質問をいただきました。
まずは回答です。母乳栄養を基本とし、湿疹をコントロールしたうえで、生後3日以内は人工乳の摂取を避け、母乳不足の場合はアミノ酸乳を追加。生後1~2ヶ月まで人工乳を少量追加することで、牛乳アレルギーを中心とした食物アレルギーの発症を抑えることができる、可能性があります。
以下に解説します。
これまで、国内で発表された有名な2つの論文を紹介してきました。
1つ目は、2019年に慈恵医大より発表された論文です。
アレルギー疾患の家族歴のある新生児を、生後3日間の人工乳摂取を避けた(母乳+アミノ酸乳のみ) (生後4日目以降は人工乳への切替え可能) のグループ と生後24時間以内より人工乳を追加したグループに2歳までの経過を比較しています、
2歳までの食物アレルギーの発症率は、牛乳アレルギーは、母乳/人工乳群が6.6%に対して、母乳/アミノ酸乳群は0.7%へ低下しておりました。さらに、鶏卵アレルギーも母乳/人工乳群が19.9%に対して、母乳/アミノ酸乳群は11.3%へ低下しておりました。小麦アレルギーは有意差はありませんでしたが、おそらくN数が増えれば差は出るでしょう。
生後3日間以内の人工乳の摂取を避けると、牛乳アレルギーのみでなく、他の食物アレルギーの発症を予防できる可能性がある、といえます
2つ目は、2020年に、沖縄県の4施設より発表された研究です。
すべての新生児を対象に (アレルギー疾患の家族歴のない新生児も含む)、生後1ヶ月~生後2ヶ月まで、摂取群 (母乳+10ml/日以上の人工乳)243名 vs 除去群 (母乳+必要に応じ大豆乳追加群)249名に分けました。生後3ヶ月以降は母乳+必要に応じて人工乳追加としております。生後6ヶ月に人工乳100mlの食物経口負荷試験により 牛乳アレルギーの発症を評価しております。
その結果、生後6ヶ月時点での牛乳アレルギーの発症率は、摂取群 (母乳+10ml/日以上の人工乳)は2/242 (0.8%) に対し、除去群 (母乳+必要に応じ大豆乳追加群)は17/249 (6.8%) の発症率でした。
この2つの研究の結果をまとめると、母乳栄養を基本とし、生後3日以内は人工乳の摂取を避け、母乳不足の場合はアミノ酸乳を追加。生後1~2ヶ月まで人工乳を少量追加することで、牛乳アレルギーを中心とした食物アレルギーの発症を抑えることができるのではないかなと思います。
恩師の海老澤元宏の総説の図表がわかりやすかったので、引用させていただきます。
海老澤元宏, 食物アレルギーの診療の課題と今後の方向性 第69回日本アレルギー学会学術大会(Jsa-Wao 2020)大会長 会長講演, 日本アレルギー学会誌 2021, 70; 178-185.
おっと、皮疹がコントロールされていることが重要ということも忘れてはいけませんね。生後3日以内の母乳が不足している時の介入が、アミノ酸乳 (エレメンタルフォーミュラーR)でなくて、加水分解乳 (ミルフィーR, MA-miR, ニューMA-1Rなど)でも良いかどうかは今後の検討課題です。