お母様からの質問「1歳になったのですが歯がはえてきません」

今日は、お母様よりいただいた、「1歳になったのですが歯がはえてきません」に

回答します。

まずは、回答ですが、「乳歯は生後8~9ヶ月頃より生え始め、3歳までにすべての乳歯が生え揃います。しかし、生える時期や順番は個人差がありますので、3~4ヶ月くらいの差異は気にする必要はありません。そのうち生えてくるでしょう

 

以下、解説

まずは、一般的な乳歯の生え方のパターンについてです。

一般的に乳歯は生後8,9ヶ月頃より (男児で平均生後8ヶ月, 女児で平均生後9ヶ月)、下顎乳中切歯 (A) より生え始め、下表の順番で進んでいきます。しかし、個人差もあり、1歳ぐらいで生えてくる子もいます。

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乳歯の生える順番 

と、お話ししましたが、お母様の不安は完全に解消されず、「では、いつまで待てばいいのでしょうか?」と聞かれ、明確にお答えできなかったのでリサーチしました。

日本小児歯科学会の実施した大規模調査によると、下顎乳中切歯 (A)の萌出が最も早く見られたのは生後4ヶ月であり、最も遅かったのは男児で生後1歳5ヶ月, 女児で生後1歳

3ヶ月でした。つまり、1歳過ぎてから萌出するのは珍しくありません

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文献より引用

歯が萌出する前には歯肉がふくらみ、指で触ると歯の存在する部分が白くなり、触れることができます。1歳になって歯がまだ生えていなくても、その部分の歯肉が他の部分と比べて膨らんでいれば心配はありません

 

乳歯の先天欠如の頻度は0.2~2.5%程度です。これには、すべての歯がない完全無歯症と一部の歯が部分的に欠如する部分的無歯症がありますが、完全欠如は極めてまれです。下顎乳切歯に多く見られます。

 

全身的な原因で歯の生える時期が遅くなる(萌出遅延)場合もあります。

・早産児, 低出生体重児

・内分泌異常 (先天性甲状腺機能低下症)

・骨系統疾患

・染色体異常(ダウン症候群, Turner症候群など) 

  ※ダウン症候群は先天欠如が見られる事が多い

・無汗型外胚葉異形成 

これらは、おおむね、診察すれば判断がつくと思います。

 

確定診断ですが、2歳以降を目安に、歯科用X線写真検査により判断します。

治療ですが、根本的な治療はありません。萌出遅延の場合は、生えてくるのを気長に待ちます。歯の先天欠如が判明した場合は、存在する歯の萌出が完了してから、必要に応じて小児義歯を装着し、咀嚼機能や発音機能を回復させるとともに、歯列咬合の保持を図ります。乳歯が欠如している場合、後継永久歯はほぼ100%欠如するので、継続した専門的な管理が必要になります。

 

次回、質問いただいたお子様に会う時は、おそらく、もう歯が生えているでしょう。もしもの時は、1歳半までは経過観察で良いことをお話ししつつ、診察上、全身性の疾患ではなさそうなことをお話しできればと思います。

 

参考文献

1) 日本小児歯科学会: 日本人小児における乳歯・永久歯の萌出時期に関する調査研究 小児歯誌 26:1-18, 1988

2) 新谷 誠康, 【小児外来必携 お子さまの病気を専門医がわかりやすく説明します(II)】乳歯の異常 1歳になったのですが、歯が生えてきません,