今日は、発達支援外来でいただいたご質問、「ADHD (注意欠如・多動症)の治療薬について教えてください」について回答させていただきます。
まずは目次から。
1.薬物治療を開始する目安について
2.薬物の種類は?
b) アトモキセチン (ストラテラR)
c) グアンファジン(インチュニブR)
d)まとめ
3.薬物治療の終結について
以下が、本文です。
1.薬物治療を開始する目安について
まずは、いきなり、ADHD=薬で治療しましょう、とはなりません。まずは、環境調整(例.教室の座席を前にする, 下校前に担任の先生と連絡帳を確認, アンガーマネジメントなど)をして、それでも日常生活の困り感が改善しない場合に検討していきます。
GAF尺度という、社会的・心理的機能を評価するのに用いられている、1~100の数値スケール (数値が大きいほど精神面について健康) も目安になります。
https://visitcare-plus.co.jp/post-type/system-1347/
GAF尺度が、
61以上→基本的に心理的治療・支援のみで対応。薬物は例外的
51~60以上(中等症)→ 心理的治療・支援で対応し、数ヶ月間、不変or悪化なら薬物
50以下(重症)→心理的治療・支援と並行し、積極的に薬物療法を考慮
とされており、ADHDと診断=薬物治療とはなりません。
※GAF尺度で、51~60は、小児では、一部の社会的機能に問題がはっきりと出現するときがあり(例,友達から孤立する)そのタイミングで子どもに出会った人はその問題に気付くが、別の場面で出会った日にはまったく問題が感じられない水準です。50以下となると不登校や頻繁なパニック発作や攻撃行動が生じてきます。
2.薬物の種類は?
ADHDの症状は、脳内の神経伝達物質であるドパミンやノルアドレナリンが不足したり神経伝達の調節異常によって、引き起こされるとされています。
ドパミンは、報酬機能 (例.目先の10円よりも翌日の100円を選択できる)に関与する脳の側座核という場所に高密度に分布する、ドパミントランスポーターによって調節されています。ノルアドレナリンは、実行機能 (物事をやりとげる力)に関与する脳の前頭前野という場所に多く分布する、ノルアドレナリントランスポーターによって調節されています。
当院では、メチルフェニデート徐放錠剤 (コンサータR), アトモキセチン (ストラテラR), グアンファジン(インチュニブR)の3種類を処方しております。
ざっくりとした作用機序は下図です。
(作用機序)
神経細胞にドパミンやノルアドレナリンが取り込まれるのをブロック (ドパミントランスポーターとノルアドレナリントランスポーターの働きを阻害。なお、ドパミントランスポーターへの親和性の方が10倍高い)します。それにより、脳内のドパミンやノルアドレナリンの濃度が上昇し、実行機能や報酬系の機能が改善します。
(薬物動態)
・1日1回、朝に服用します。緩やかに血中濃度が上昇し、効果は服用開始から数時間で現れ、12時間持続します。その後は、効果が消失するだけでなく、むしろ落ち着きがなくなったりするなど、効果のon-offが明確です。
・至適用量は18~54mg/日まで幅広く分布しています。用量依存的に症状の改善が期待されますが、個人差が認められます。
・不注意型優勢型は、低用量 (18mg)で有効性がみとめられる場合があります。
(副作用)
・主な有害事象は、食欲不振, 不眠, 体重減少, 頭痛, 腹痛, 悪心, 嘔吐で、国内の臨床試験では80%に認められました。
・用量の違いによる副作用発現頻度の違いはありません。
・頭痛や腹痛は、服用を継続する中で改善することが多いです。
・服用後に違和感や軽度の微熱を訴える子どももいます (ノルアドレナリンの作用)
・不眠は服用時間が遅れると入眠困難という形で出現することもあります。
・食欲低下が、最も懸念される副作用です。対応策としては、朝食を十分に摂取させる, 作用の切れる夜に補食をする, 休薬日を設けるなど。
・成長への影響について
21ヶ月間、健常な児童と比較した検討では、身長が-0.1cm/年, 体重が-0.54kg/年、と
軽度な成長障害が見られました。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16175106/
・かえって情緒不安定になったり、こだわりの増強や抜毛が見られる場合もあります。
この場合は薬剤の中止を検討します。
・投与を控えた方がよい場合:チック, てんかん, 甲状腺機能亢進症, 不整脈, 狭心症
・成長ホルモンに対する影響については一定の見解は得られていません。
・神経発達への影響については、脳容積の変化にメチルフェニデートは悪影響をもたら さないことが示されています。
・依存性のリスクは少ないが、登録した医師にしか処方できず、登録した薬剤師にしか調剤できず、処方日数は30日が上限となっております。
b) アトモキセチン (ストラテラR)
(作用機序)
選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬で、非中枢神経刺激薬に属します。前頭前野のノルアドレナリントランスポーターに作用し、前頭前野のノルアドレナリンとドパミンの濃度が上昇し実行機能の働きを高めます。
(薬物動態)
服用からおよそ1時間で最高血中濃度となる。1~2ヶ月の服用の中で、効果が認められ、1日2回の服用で24時間効果が認められる。
(副作用)
・発現頻度が5%以上の主な副作用は、食欲低下, 嘔吐, 傾眠, 易刺激性, 倦怠感, めまい
・消化器系の副作用は、投与初期にみとめられる事が多く、低用量から緩徐に増量
することで回避できることが多い
・眠気が強い場合は減量する
・ノルアドレナリンの作用により、有意な心拍数増加, 血圧上昇が認めれるが、正常範 囲内にとどまり問題となることは少ない
・5年間の成長への影響を検討した報告では、最終身長, 体重ともに影響はなかった
(一時的に低下するが、最終的には標準値に戻る)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17979588/
・まれではあるが、投与初期の自殺念慮に注意する
c) グアンファジン(インチュニブR)
・従来は、高血圧の治療薬でした
・1日1回の服用で、服用開始1~4週で効果をみとめ、24時間効果は持続します。
・食欲低下や消化器系の副作用はありません
・眠気は、投与開始1~2週までに出現し、その後軽快する傾向があります。
・血圧・脈拍が少し低下する可能性があります(受診毎に測定)
d)まとめ
3.薬物治療の終結について
・ADHDの症状は青年期~成人期にかけて減弱する
→メチルフェニデートによる薬物治療は通常は思春期に終了を目指す
・投薬中止の目安は1年以上症状が認められない(寛解という)こと
飲み忘れや休薬日に症状の悪化のないことも、寛解の目安
・進学時や新年度の開始時などは休薬を行うのに適切な時期ではない
今回は総論的になってしまいましたが、今後、各テーマについて少しずつ掘り下げて行けたらなと思います。