今日は福井県における「キレる子ども」の実態調査の報告を共有させていただきます。
論文名:福井県内の小・中学校における「キレる子ども」の実態調査
筆頭著者:川谷正男 (福井大学医学部小児科)
雑誌:小児の精神と神経 61:53-62, 2021
🚆背景
・キレるとは、我慢が限界に達し理性的な対応ができなくなる状態
=感情をコントロールできずに、言動や行動が暴走する状態
・文部科学省の調査によると、小学校における暴力行為発生件数は年々増加
・間欠爆発症 (Intermittent Explosive Disorder, IED) は、些細な心理社会的ストレスが誘 因となり、不相応な衝動的攻撃性の爆発が急激に起こる疾患
具体的な特徴は、かんしゃく発作, 激しい非難, 言葉での口論やケンカ, あるいは所有物の破壊, 動物や他者にケガを負わせない程度の暴行が3ヶ月間で平気して週2回以上おきる、所有物を明らかな価値にかかわらず損傷または破壊する、あるいは暴行したり打ったり、または何かほかの方法で動物や他者に負傷させることが1年間に3回以上起きる
(診断基準A)
原因は些細なことでも烈火のように激しく反応してしまい、特にストレスが溜まっていなくても突発的に起こる (診断基準B)
攻撃や破壊をすることで自分を遊離にしようとする意図はない (診断基準C)
🚆研究の目的
小・中学校におけるIEDが疑われる児童・生徒の割合、教育現場での実際の対応や問題点を明らかにする
🚆対象と方法
・2018年12月に福井県の全小・中学校を対象に「間欠爆発症(IED)の疑いのある子ども」 に関するアンケート調査を行った
・アンケートの内容
1.暴言・暴力や破壊行動の頻度を問わないIEDが疑われる児童・生徒の人数
2.上記診断基準Aに沿った、IEDに相当する児童・生徒の人数
3.感情爆発に至った要因
4.学校での有効であった対応とそうでなかった対応 など
・全小学校204校中87校 (42.6%)、中学校 91校中49校 (53.8%) より回答が得られた
小学生16,830名、中学生10,777名が対象となった。
🚆結果
1)IEDが疑われる児童・生徒が在籍する学校は、小学校の方が有意に
割合が高かった。
2) IEDが疑われる児童・生徒数は、小学校が142名 (0.84%), 中学生30名 (0.28%)で、小学生の 方が有意に高かった。
3) 男児の方が圧倒的に多かった。
4) IEDに相当する児童・生徒数も同様の傾向であった。
5)IEDが疑われる児童・生徒、IEDに相当する児童生徒の割合は、いずれも小学3~4年生が最も高かった。
6) 感情爆発の要因
神経発達症 (自閉スペクトラム症やADHD)を併存している児童・生徒がその発達特性に伴う行動上の問題の悪化によって感情爆発に至ったというパターンが最も多かった
その他、先生の指導・注意, 友人関係の悪化, 学習の問題、家庭環境の変化が挙げられた。
7) 有効であった対応
・爆発時は、クールダウンさせる、受容的な対応、別室の利用
・爆発していない時に、発達特性や能力に応じた対応
例.課題の量や内容を調整する, 肯定的な対応, 視覚的な指示など
8) 有効でなかった対応
・強制的な対応
・保護者や他者の面前での指導
・本人の能力や希望に合わない指導
・本人の否定的な部分だけを保護者に伝える
🚆まとめ
キレるこどもは、小学生の0.84%, 中学生の0.28%に存在し、小学校3~4年生の割合が最も高く、全ての学年で男児が多かった。感情爆発の要因は本人の発達特性の悪化が最も多かった。普段から本人の発達特性や能力に応じた対応をし、感情爆発時はクールダウンや受容的な多対応が有効である。
🎤感想
私が外来で間欠爆発症と思われる子を4人対応してきましたが、論文で示されたことと同様の傾向がありました。感情爆発の要因は本人の発達特性の悪化とあるが、悪化するための要因としては、ストレスがかかるので、そこを見ていかないといかないですね。
小学校3~4年生は、学校では、学習面で難しくなる、周囲の子ども達の人間的な成長、により差を感じてしまう、そのうえ、家庭で保護者から勉強について言われると、もうストレスは振り切れてしまうかもしれません。
この論文は学校での感情爆発のみを取り上げており、著者も研究の限界点ととして述べておりました。私の対応した、4人中3人は学校など家庭外では感情爆発は見られなかったので、キレる子は実際はもっと多いかもしれませんね。そのうちの1人の感情爆発は家庭内のみだったので、家庭に要因があるのかと思っておりましたが、支援級に移動したとたんに、ピタリとなくなりました。本人に合った環境の提供だけでこんなに劇的に変化するものなのかと私自身勉強になりました。