知的障害, 発達障害を有する方の、成人後の他科への移行は課題の1つです。今回、
島田療育センターはちおうじ (神経疾患, 発達障害の専門医療機関) から、トランジションの取り組みについての報告がありましたので紹介させていただきます。
タイトル:知的障害, 発達障害におけるトランジションの取り組みについての検討
筆頭著者:小沢愉理 (島田療育センターはちおうじ)
雑誌:小児の精神と神経, 61:43-51, 2021
✈対象と方法
2017年10月~2018年9月に療育外来を受診した20歳以上の症例を対象。年齢・主病名について後方視的に検討。移行先の精神科・心療内科に、移行に関する意識について調査
✈結果
(1) 20歳以上の症例の検討
期間中の受診者は3,676人で、20歳以上で診療を継続しているのは203人 (5.5%)
年齢は20~29歳が128人 (63%)と多い一方で、50~59歳も6人 (3%) いた。
主病名は自閉スペクトラム症 (ASD) 46人、脳性麻痺 (CP) 42人、ダウン症39人、てんかん33人が多かった。
(2) 精神科・心療内科への移行症例
44人 (男性38人、女性6人)で、年齢中央値は20歳であった。主病名はASDが29人、注意欠如多動症 (ADHD) 5人、知的障害 (ID) 8人、チック障害1人、不安神経症1人であった。
移行後戻ってきたのは3人で、2例は対応不可、1例は引きこもりで受診不能であった。
(3) 移行先の医療機関へのアンケート
15施設に送付し、12施設13名より回収 (回答率80%)
精神科への移行希望年齢は18歳が最も多かった
詳細な情報を希望する医師が多く、検査に関しては直近の物を、書類に関しては継続する必要のある書類のコピーが欲しい、という意見があった
診察可能な疾患について、最重度の知的障害やてんかんも可能であるという回答あり
小児科からの移行時に困難を感じるという回答は10人 (77%) であった。
自由記載では、小児科と精神科の違いに家族が混乱し治療関係の確立が難しい、紹介状が簡単で情報が少ない、重症になる前の紹介を希望、という意見があった。
📕感想
当院でも遠い将来に直面しうる問題である。小児科では保護者主体の診療となっており本人の受診の目的は乏しく、保護者の困りごとを相談する場となっていることが多い。
成人科となると本人主体の診療で、またお医者さんも小児科のように優しくはないので、戸惑うことも多い。
中学生も自分の病名について知り、説明を受けたいという気持ちはあるという報告も先日紹介させていただいた。
小児科医として、徐々に、1) 本人主体の外来に切り替えていく、2) 本人への診断告知、3) 本人のプレゼンスキルの練習 4) 本人・保護者への成人科移行への説明を定期的にするなどが必要と思われる。