【学会メモ】鶏卵の消化管アレルギー

学会メモでは、各種学会のオンデマンド配信でとても有用だった内容を紹介しております。今回は、日本アレルギー学会のミニシンポジウムの、鶏卵消化管アレルギーのセッションの内容をが、演者の先生方の迷惑にならなさそうな範囲で共有させていただきます。

鶏卵による消化管アレルギーはこの数年で注目されています。外来でもまだ分からないことが多いですとお話することが多いので、少しでも患者さんに今後の見通しを説明できればと思い、このセッションを視聴しました。

 

消化管アレルギーとは、

大基準

被疑食物を摂取後、1~4時間後に嘔吐する。皮膚・呼吸器の症状は認めない

小基準

1) 被疑食物を摂取後に反復する嘔吐のエピソードを2回以上有する

2)被疑食物とは別の食物を摂取1~4時間後に反復する嘔吐のエピソードを有する

3)被疑食物を摂取後に著しい傾眠傾向・無気力状態

4) 被疑食物を摂取後に顔面蒼白

5) 被疑食物を摂取後に救急受診

6) 被疑食物を摂取後に輸液 (点滴) を要した

7)被疑食物を摂取後に24時間 (多くは5~10時間以内)に下痢をした

8)被疑食物を摂取後に低血圧を呈した

9) 被疑食物を摂取後に低体温を呈した。

(Nowak-Wegrzyn A, et al. JACI, 2017;139:1111-1126) 

 

過去の消化管アレルギーのブログ記事は以下です

 

teammanabe.hatenablog.com

 

さて、発表内容を紹介していきます。

私のコメントや追記は赤字です

1) 消化管アレルギーー12例の検討 (沖縄協同病院)

・2018年1月~2020年12月の期間での鶏卵消化管アレルギー患者を電カルより抽出

・年度毎の発症数は2018年 3例→2019年1例→2020年8例と推移

・発症月齢は7~11ヶ月

・卵黄のみに反応が11例、卵黄・卵白両方に反応が1例

発症前は全例が卵黄を症状なく摂取していた (=初回摂取での発症はない)

半数は発症前に摂取可能だった量が摂取できなくなっていた

 例.以前は卵黄1/2個を症状なく摂取していたが、1/8の摂取で嘔吐した

・学会発表では11例中 (1例は転居) 6例が耐性獲得 (=治癒) していた

 

2) 当院におけるFood Protein Induced Enterocolitis Syndrome (FPIES) 33名の臨床経過

さいたま市立病院小児科

・2010年4月~2021年3月の期間にFPIESと診断したのは33例、そのうち鶏卵は11例

・誘発症状として活気不良を大部分にみとめた。診断基準にはないが高体温を7例 (21%)に認めた。

鶏卵は37ヶ月の追跡で5/11例(45%)が耐性獲得。耐性獲得した症例の、発症~耐性獲得までの期間の中央値は13ヶ月

・FPIESの原因食物は地域で異なる、例えば、イタリア、スペインは魚が多い。遺伝的なものなのか、食習慣によるものかは明らかではない

 

3) 食物経口負荷試験に基づいた鶏卵FPIESの予後の検討 相模原病院

・2017年1月~2020年7月に卵黄消化管アレルギーと診断し、卵黄負荷試験を実施した症例の後方視的検討

負荷試験初回は固ゆで卵黄2g→陰性なら3ヶ月以内に卵黄1個で実施

・対象は11例。発症から負荷試験までの期間の中央値は13ヶ月 (範囲:6~16ヶ月)

11例中5例が卵黄2gの負荷試験は「陰性(=pass)」そのうち4例は次の卵黄1個の

 負荷試験も「陰性」 すなわち、4/11例(36.3%)が耐性獲得

卵黄2gの負荷試験で陽性だった6例は全例に、嘔吐(3~8回)と活気低下をみとめた

 すなわち、強い症状が誘発されていた

 

4) 卵黄FPIES10例の食物経口負荷試験の検討   近畿大学

・大基準を満たした10例を対象 (本来の基準を満たさない軽症例が含まれる

    小基準3項目以上を満たしたのは4/10例 (40%)

・発症月齢中央値は7.5ヶ月、負荷試験実施時期の中央値は13ヶ月

・耐性獲得(=治癒) 例は7/10 (70%)

診断基準を多く満たした症例が負荷試験で陽性(=症状あり)であった。

 より重症例ということで当たり前と言えば当たり前ですね

 

🎤所感

沖縄からの発表は私が日々感じている印象通りでした。相模原とさいたまの発表によると13ヶ月の期間をあけての負荷試験で耐性獲得率が約40%だから、負荷試験は発症から1年以上あけたほうが無難かと思います。近畿大や沖縄の症例は、もちろん鶏卵消化管アレルギーと思いますが、厳しい診断基準だとはじかれるような軽症例も含まれているため70%という高い耐性率になったのでしょう。負荷試験としては、最初は卵黄2gを総負荷量とするのは妥当のようですが、陽性例の誘発症状が強く、注意が必要ですね。

当院では、今まで卵黄摂取した2時間後以降に嘔吐をみとめた全例紹介しておりましたが、大基準のみを満たすような疑い症例(例.卵黄1/2個をみとめて、嘔吐1回のみで顔色不良はなしなど)は当院でも対応していきたいと思います。プロトコールとしては、症状誘発から1年あけて、卵黄2gを総負荷量として実施かな・・・。観察時間を確保するため、自宅で摂取してから来院などの工夫も必要ですね。