最近はみなくなった、蟯虫症

今日は、蟯虫症について振り返りたいと思います。我が国における寄生率は1990年代までは数%でしたが、2000年以降は約1%前後で推移しています。こうしたことより、学校保健法の改正で、2016年度を最後に小中高での蟯虫検査が義務ではなくなりました。私も小学校4年生の時に「陽性」が出たことがあります。担任の先生に嫌われていて、全員の前でその結果を公表されました。その教師が翌年他校の校長となっております。

嫌な記憶を思い出し、話題がそれかけたので戻りましょう。蟯虫の体長は、成虫でオス2~5mmでメスは8~13mmで、尾の先端がピン状に尖り、pinwormと呼ばれます。

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盲腸や大腸上部に寄生し、夜間の就眠時の肛門括約筋が弛緩した時に、大腸を降り、肛門を這いだし、虫卵 (約1万個)を、肛門周囲半径1.5~2cm以内に産み付け死滅します。そして、虫卵は数時間で幼虫包蔵卵 (感染が可能な幼虫を内部に持つ虫卵) となり感染力を有するようになります。さらに、虫卵は比較的乾燥に強く、数週間から数か月にわたって感染性を持ちます。起床時に痒みのために、肛門周囲を掻把することで手指に付着し、下着, 寝具など生活環境に散布され、家族内に伝播しやすいです。

一般に無症状のことが多いですが、肛門での産卵 (尾端での刺激)により、肛門周囲の痒みが起こり、不眠、注意力散漫、精神不安定などの症状がみられることがあります。全身症状は少ないですが、多数寄生で腹痛、吐き気などの消化器症状が現れることがあります。虫垂内迷入→虫垂炎、女性性器迷入→膣炎, 子宮内膜炎, 卵管炎が見られることもあります。

診断ですが、早朝に肛門周囲に産卵するため、朝起きてすぐセロファンテープなどを肛門に貼り付け、虫卵を検出します。1回より2~3回行ったほうが検出率は高くなり (1回のみでは60%程度の検出率)、2-3日連続で行います。蟯虫は通常では消化管内での産卵は行わないため、糞便で虫卵は検出されません。血液検査やレントゲンでは診断できません。

治療は、パモ酸ピランテル(コンバントリンRを服用します。初回と2週間後に単回服用します。1回投与で90%以上の保卵者が陰性となりますが、幼虫には無効であるため、感染者の体内に幼虫と成虫が混在している可能性が高いことを念頭に置いて、2週間程度の間隔をおいて再度服用することが必要です。

容易に再感染するので、虫卵陽性者への投与と同時に、同居者の蟯虫検査ならびに治療を行う必要があります。。虫卵は通常の環境で生存し、長期にわたって感染能力を維持することも想定されるため、衣服やリネン類の日干し(虫卵は直射日光に弱い)を行うことや、施設あるいは家庭内の清掃を徹底し、感染の機会を減少させる必要があります。当院で勤務した4年間でまだ1例しか経験しておりませんが、その時は、セロハンテープは1000枚単位でないと購入できず、また検査か医者の検査依頼伝票から蟯虫検査の項目が消えており大変でした。