アストラゼネカ社製ワクチンについて

現在、ファイザー社製やモデルナ社製のmRNAワクチンは供給不足で、先日、受診した保護者の方より、集団接種を予約したが1回目の接種は11月になってしまったという話を伺いました。わが国には、アストラゼネカ株式会社(以下、AZ 社)製の新型コロナワクチンもあります。今こそその使用を検討すべきではないでしょうか?

 

今日は、AZ 社製の新型コロナワクチンについての日本ワクチン学会からの声明を紹介したいと思います。JSVAC_AZvac_HP210531.pdf

 AZ社製のワクチンは、ウイルスベクターワクチンという種類のワクチンで、人体に無害でかつ人体内で増殖することができない、改変ウイルス (チンパンジーアデノウイルス) を「運び屋」(ベクターとして使用し、新型コロナウイルスの中のスパイク蛋白のみの遺伝情報をヒトの細胞へと運ぶものです。ベクターを介して細胞の中に入った遺伝子からスパイク蛋白が作られ、体がスパイク蛋白に対する免疫を作ることで効果を発揮します。

 

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新型コロナウイルスは、スパイク蛋白より人体内の細胞に侵入します。

 海外における試験で発病を防ぐ効果が 76%とされています。これは発病を防ぐ効果が 90%以上である、ファイザー社製やモデルナ社製のmRNAワクチンと比較すると低く思われるかもしれませんが、重症化や死亡を防ぐ効果は 100%とされています。

このワクチンには、通常の冷蔵温度(摂氏 2~8 度)で最低 6 カ月間保管、輸送および管理が可能、という利点もあります。

(ファイザー社製は冷凍での輸送から解凍後に摂氏 2~8 度で1ヶ月保存可能) 

https://www.toyamashi-med.or.jp/file_upload/100210/_main/100210_01.pdf

こうしたことより、2021 年 5 月 21 日にわが国において特例承認 (健康被害の拡大を防ぐために、他国で販売されている日本国内未承認の新薬を、通常よりも簡略化された手続きで承認し、使用を認めること) され、国内でも生産が開始されています。

https://www.nipro.co.jp/news/document/210526.pdf

しかし、海外で製造販売後に、接種後の副反応として、血小板という血液を固めるための成分の減少に伴う、塞栓および血栓の事象が極めてまれではありますが報告されたことより、「予防接種法に基づいて公費で受けられるワクチンとするかどうかは、引き続き、審議会で議論 」していくとされ、国内での接種には用いられないことも想定されます。それで、現在は、台湾やベトナムAZ社製のワクチンを供与しております。

台湾に対する新型コロナウイルス・ワクチンの追加供与|外務省

欧州医薬品庁(European MedicinesAgency/以下、EMA)は 2021 年 4 月 4 日現在、塞栓および血栓が、約 3,400 万回接種で 222 件 (100 万回接種で 6.5 件)起きたと報告しております。その多くが 60 歳未満の女性で、接種後2 週間以内に発症しているとされています。しかし、EMAは稀な血栓症よりも予防効果というメリットの方が上回る」という声明を発表しています。

日本ワクチン学会の声明で、わが国においても年齢や性別、基礎疾患の有無等も勘案して接種対象を選定して使用していくことは一案ですと記載されているように、血栓症のリスクが高いとされる60歳未満の女性を対象外とすれば、接種を検討する意義はあるのではないかと思います(希望者は一定数いると思います。)また、同学会は、特例承認はされたが国内では使用されないという状況は、ワクチン接種による新型コロナウイルスへの対策が世界中で喫緊の課題である中、国際的に理解を得られず批判を受けることを懸念しております。そして、 国内外における 新型コロナウイルス感染症 の早期の制御を目標に、国を挙げて一致協力して対策に取り組んでいく、そのために、特例承認されたアストラゼネカ株式会社製の新型コロナワクチンがまずわが国で活用されることが不可欠です、と結論づけています。