お母様からの質問:炎症性腸疾患は遺伝するのでしょうか?

今日は、お母様からの「炎症性腸疾患は遺伝するのでしょうか?」に回答します。私は遺伝の専門家でも炎症性腸疾患 (潰瘍性大腸炎クローン病)の専門家でもないこと、ご承知おき願います。しかし、開業医としては、患者さんのあらゆる質問に対応させていただかないといけません。変なことを書いていたらやんわりと訂正してくださいね。

潰瘍性大腸炎とは?

https://www.mochida.co.jp/believeucan/learn/

クローン病とは?

クローン病とは|クローン病|ドクター's コラム|eo健康

炎症性腸疾患 (IBD)は、近年増加傾向です。10万人あたりの有病率が、2005年には潰瘍性大腸炎63.6, クローン病21.2であったのが、2012年にはそれぞれ106.2, 31.2と上昇しております。外来で初診の方には、ご家族の持病も確認させていただいておりますが、両親のどちらかがIBDに罹患していることは珍しくありません。

今回の質問への回答は、

炎症性腸疾患は、下図のように「遺伝」「環境因子」「腸内細菌叢」「免疫反応」など複雑に色々な要因が絡み合って発症します。従って、○○%の率で発症しますよなどは現時点では申し上げられません

f:id:teammanabe:20210610051025j:plain

文献より引用

遺伝について

遺伝子変異のうち人口の1%以上に存在する変異を遺伝子多型と呼びます。遺伝子変異の中で多いのが、一塩基変異 (SNP; single nucleotide variant) で、日本人では300万箇所以上確認されています。

f:id:teammanabe:20210610052410j:plain

https://www.pss.co.jp/sc_bio/contents4.htmlより引用

一般的なIBD (炎症性腸疾患)にかかわる遺伝的背景は、遺伝子多型で規定され、これらを疾患感受性遺伝子と呼びます。これらがあるから、発症するというわけではなく、ない場合と比べて「IBDへのなりやすさ」があるというイメージです。実際に、疾患感受性遺伝子は欧米を中心に240以上報告されていますが、1つ1つの疾患へのリスクは少なく、この変異のない場合と比較して1.1~1.5倍ほどです。

 

環境要因 (含腸内細菌) について

f:id:teammanabe:20210610135148j:plain

炎症性腸疾患の発症リスク 文献の内容をまとめた

参考文献📕

1. 角田 洋一,【炎症性腸疾患-炎症性腸疾患の病態と変わりゆく治療戦略】実地医家が理解すべき疾患背景と診療のプロセス 炎症性腸疾患の病態 遺伝的要因や疾患感受性遺伝子とはどのようなものか?, Medical Practice. 2020.12;37(12):1825-1830.
2.仲瀬 裕志, 【最新遺伝医学研究と遺伝カウンセリング(シリーズ3) 最新 多因子遺伝性疾患研究と遺伝カウンセリング】(第3章)主に成人期にみられる多因子疾患の遺伝医学研究・診療各論 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎クローン病), 遺伝子医学MOOK. 2018.06;別冊(最新多因子遺伝性疾患研究と遺伝カウンセリング):165-169.
3. 木村 智哉, 他.「炎症性腸疾患を解き明かす-今後の解決すべき問題に向けて-」炎症性腸疾患はなぜ増加し続けているのか, The GI Forefront. 2016.09;12(1):20-23.