乳児の消化管アレルギーについて

2/17(水)の朝日新聞の記事に2000年頃より報告数の増えている乳児の消化管アレルギーという特殊なアレルギーについての記事がありました。当院でも時々経験するので紹介させていただきます。

通常の食物アレルギーは、即時型食物アレルギーといって、原因となる食物 を摂取した2時間以内に、蕁麻疹など皮膚症状, 咳嗽など呼吸器症状, 嘔吐・下痢など消化器症状を認めますアナフィラキシーショックという生命にかかわる重篤な症状も稀に起こります。原因食物は多彩で年齢とともに変化します。

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即時型食物アレルギー 新規発症例の原因食物 食物アレルギー診療の手引き2017より

消化管アレルギーは、原因としては鶏卵・牛乳が多いです。牛乳は新生児期に病院にいる間に、人工乳をあげた際に発症することが多く、嘔吐・下痢だけでなく血便や体重減少を認めることがあります。余談ですが、私が足柄上病院で勤務していた時に、2009年より、消化管アレルギーの発症を予防するために、入院中の新生児のミルクは、普通のミルクからMA-1というアレルギー用ミルクに変更しておりました。

当院で経験するのは鶏卵例です。離乳食として、卵黄固ゆでを摂取させて3時間以上たった後の嘔吐を主訴に受診します (私自身、鶏卵が原因で血便や体重減少をきたした症例を経験したことがありません。新生児と乳児という時期の違いなのか?あるいは摂取蛋白量の違いなのか?人工乳は大量の蛋白を1日に複数回摂取しますからね)。症状が嘔吐だけで1回の嘔吐だけで終わる場合もあるので、アレルギーに詳しい先生でないと、何かの拍子で吐いたのかな?あるいは胃腸炎かもしれないね?で終診となってしまう場合も少なくありません。典型的な即時型食物アレルギーを合併することもありますが、多くは、血液検査や皮膚テストでも反応が出ないのも、消化管アレルギーの診断の難しいところです。成育医療センターが実施した全国調査によると、隠れた患者さんの存在する可能性が指摘されています。

では、いつ頃治るのでしょうか?新聞では鶏卵、牛乳がまとめて記載されていましたが、分けて考えないといけません。牛乳は早期に耐性獲得 (治癒)し、鶏卵は時間がかかるようです。

 牛乳について、国内では、Kimuraらが32例の耐性獲得 (治癒)の時期は、生後6か月で18.8%, 1歳で56.3%, 2歳で87.5%, 2歳6か月で96.9%と報告されています。Prognosis of infantile food protein-induced enterocolitis syndrome in Japan - PubMed (nih.gov)

鶏卵については国内ではまとまった報告はなく、海外でも1桁の症例数の報告しかありません。Leeらは、鶏卵による消化管アレルギー8例のうち、2歳までに1例(12.5%), 5歳までに2例が耐性獲得したと報告しております。Resolution of acute food protein-induced enterocolitis syndrome in children - PubMed (nih.gov)

その一方で、Vazquez-Ortizらによると、鶏卵アレルギー8例のうち7例 (87.5%)が耐性獲得し、その平均時期は41カ月でした。Food protein-induced enterocolitis syndrome to fish and egg usually resolves by age 5 years in Spanish children - PubMed (nih.gov)

鶏卵については予後はまだ不明な部分が多いですが、耐性獲得する可能性はありますので、定期的な食物経口負荷試験による評価が必要ですね。 

最後に、鶏卵アレルギーの原因物質について。一般的な即時型の鶏卵アレルギーは卵白に原因があり、卵黄の摂取で症状が出ることは比較的まれです。その一方で、消化管アレルギーは卵黄に原因物質があると推測されます。私の勤務していた相模原病院から昨年に、卵白ではある程度症状が起こらない人がいることが発表されました。Food protein-induced enterocolitis syndrome triggered by egg yolk and egg white - PubMed (nih.gov) ネット上では、要約が見れないので、著者の西野先生にもらおうかなと思います。昨年の世界アレルギー学会ではたしか11例での発表でした。私が開業してから10例弱を紹介させていただいているので、当院からの患者さんもある程度含まれているかもしれません。

成育医療センターと慶應義塾大学の関連病院で2015~2019年に診断した26例の検討によると、「卵黄」と「卵白」を別々に摂取した23例のうり、20例が「卵黄のみ」に反応し、3例が「卵黄と卵白両方」に反応しましたが、「卵白のみ」に反応した症例はいませんでした。15例に卵黄と卵白を別々に負荷試験を実施しており、症状がでない料は卵黄が0.025~7,5gに対し、卵白は8~20gで、卵白は卵黄より多く食べても症状が出にくいことが分かりました。Multicenter retrospective study of patients with food protein-induced enterocolitis syndrome provoked by hen's egg - PubMed (nih.gov)

鶏卵による消化管アレルギーはこれから色々なことが分かってくると思います。当院のかかりつけの方も少なくないので、最新の情報があれば、定期的に紹介してまいりたいと思います。