先日の外来でお母様よりご質問いただきました。今まで気にしたことのなかったテーマ
なので、少し調べてみました。勉強する機会をいただきありがとうございます。
まずは、結論から
1) きき手の同定は言語機能の確立期以降でないと明確でない。
2) 言語が流暢になるころまでの時期であればこまめに指導することで、左きき→右ききへの変更が可能な事があれば無理をしないことが望まれる。学童期では、非常な負担となるので、お子様のきき手を尊重する。
1.両親, 祖父母のきき手を確認しよう
きき手は90%が右, 残りの10%が非右で大部分が遺伝要因で決まるとされています。したがって、ご両親や祖父母のきき手は大事な情報です。
成人のきき手は、以下のH.N.テストで確認できます。昔は左ききは矯正されることが一般的だったので、書字や箸の使用以外の動作についても確認が必要です。
2.左ききはなぜ起こるの?~理論的な説明
(ここは難しいので興味のある方のみお読みください)
(1) 遺伝子による説明
言語が左脳に局在し、それに伴って右手ききになることが遺伝子により決定されるます。25%は左脳言語とは決定されず、その後の環境の諸条件で、半数が右手きき、半数は左手ききに分かれていきます(全体の12.5%が左きき)。このモデルでは、言語機能が優先し、それを基盤にきき手が決まるので、言葉が獲得されてからのきき手の変更は難しいことが示唆されます。
(2) 性ホルモンによる説明
性ホルモンが妊娠中期の胎児に作用し、左脳の特定部位の発達を鈍化させ、右脳の後頭部の発達を促進させます(数学や芸術など右脳の関与が大きい技能に優れる可能性があります)
(3) 胎児期および出産時のストレスによる説明
この時期に手の運動をつかさどる部位の脳組織が損傷を受けると、反対側の脳部位が優位に機能するようになります。つまり、右ききになるはずの胎児の左脳になんらかの損傷が生じた時は、右脳に依存することになり、もっぱら左手が使われることに。
(4) 発達不安定理論
遺伝子自体その発現が不安定で胎児期の様々な環境要因(例.ウイルスなど病原体) の影響を受けやすい
3.きき手を変更した人の老後は?
知的機能には差がないが、生活満足度や健康度は変更歴のない人よりも劣っていたという報告があります。
医師は左ききでも困ることはあまりないと思います。研修医時代の指導医の先生が、
注射などの処置を覚えるのに、見本が右ききなので、そこだけは苦労したとおっしゃっておりましたが、仕事には全く支障はなさそうでした。なお、当院の看護師のNさんは
左ききですが、両手を使えるようです。全く気付かなかった・・。
参考文献
八田武志:左きき, 小児内科, 43 (10), 2011.
(この文献に記載されていた参考文献は割愛させていただきます)