心霊現象ではありません~金縛りのメカニズム

今日は、思春期の患者さんより、時々相談を受ける「金縛り」のメカニズムについて解説したいと思います。

 

金縛りは、睡眠障害の一つで、反復性孤発性麻痺という名称がついております。

特徴としては、1) 動けない, 2) しゃべれない, 3) 不安感や恐怖感を伴う, 4) 胸の上に何かがのっている感覚がする, 5) 誰かがいる 6) 聴覚, 視覚, 触覚に関する幻覚症状が生じる、です。エピソードは数秒から数分持続します。金縛り時の睡眠姿勢は80%以上が仰臥位 (あおむけ)です。初発年齢は、女性で15歳, 男性で17歳が最も多く, 頻度は生涯に1回から年に数回まで様々です。1回でも経験した人は約40%に及ぶといわれており、みなさんも1度ぐらいは体験したことがあるかもしれません。

 

ここで、症例を提示します。個人情報が特定されぬよう、内容を少し変えております。

 

【症例】高校1年の男児。いつも帰宅後20時まで眠り、その後2時まで活動し、その後朝まで眠るという生活リズムであった。外来受診時に、2度目の睡眠時に、体が動かないという相談があった。

 

睡眠は、急速眼球運動を伴わない「ノンレム睡眠」と急速眼球運動を伴う「REM睡眠」に分けられます。通常の睡眠は、ノンレム睡眠N1(浅い睡眠)→N2→N3 (3:深い睡眠)を経て、最初のREM睡眠が出現します。その後、90-110分の周期で、ノンレム睡眠~REM睡眠を繰り返します。REM睡眠の時の脳波は、N1(浅い睡眠)~覚醒に近く、そのため夢をみます。

 

金縛りは、ノンレム睡眠を経ず、いきなりREM睡眠状態となるために、覚醒中の意識と連続してしまうと考えられています。また、REM睡眠では運動ニューロンが抑制され抗重力筋の抵抗が消失するため、金縛り体験時の麻痺の原因となります。金縛り体験中に自身が覚醒していたと感じ、周りの部屋の様子を見たと報告する体験者も多いが、実際に録画すると体験者は閉眼しており、この体験は脳内で起きている仮想現実体験になります。

 

金縛りが出現しやすい条件の一つは、夕方から夜にかけて長い過眠をとり、その仮眠中にノンレム睡眠が出現し、その後夜更かしして明け方 (REM睡眠が出現しやすい時間帯)に眠った場合です。

 

提示した症例は、2度寝をしないようにアドバイスしたところ、金縛りはなくなりました。

 

参考文献

 1.福田 一彦, 神経科学の素朴な疑問 金縛りはどうして起こるのですか?: Clinical Neuroscience. 2019.12;37:1538.
2.神山 潤, 【知っておきたい稀な精神症候・症候群-症例から学ぶ-】金縛り: 精神科治療学. 2019.10;34(増刊):80-82.