学校検尿について

今回は40年以上の歴史のある学校検尿についてお話しいたします。

学校検尿の最大の目的は、腎炎や先天性腎尿路奇形などの腎疾患を発見して早期治療につなげることです。腎疾患は初期には症状がありませんが、尿異常は病初期より出現します。治療を必要とする疾患の中で、検尿により最も多く発見されるのが、IgA腎症という慢性腎炎です。この疾患は治療法が確立されており、早期治療により末期腎不全への進展を遅らせることができます。実際に、学校検尿が導入された世代より、若年のうちに末期腎不全にいたる人数は明らかに減少しております。なお、このような変化は学校検尿のない米国では見られておりません。

学校検尿の流れですが、学校での1次検尿, 2次検尿と連続して異常所見があった場合、精密検診になります。検診は、公共施設にて集団で行うA方式と、近隣の医療機関を受診するB方式があります。検診後に暫定診断と管理方法 (食事・運動) が決定されます。わが国では8割がB方式ですが、一部の地域では、精密検診の受診の有無やそのデータを把握できておらず改善が求められています。なお、学校検尿の段階で尿蛋白,や血尿が高度であった場合は、緊急で小児腎臓病専門施設を受診させる必要があります。

 検尿前の注意点ですが、第1に、大量のビタミンC摂取 (ジュースや果物など)

を控える必要があります。尿潜血が偽陰性になる可能性があるからです。第2に、前日は、寝る直前に完全に排尿し、当日の朝は起床直後の尿を採ること、第3に前日は夜間に及ぶ激しい運動を控えることです。これらが守れないと蛋白尿を認める可能性があります。最後に、女子の場合、月経時はプライバシーに十分配慮したうえで、小・中学生は約10日~2週間、高校生は約1~3週間検査を延期することが望ましいです。

 異常所見の割合は、1%未満です。検尿異常がある場合、すぐに腎疾患があると判断する訳ではなく、血尿あるいは蛋白尿単独例では、大部分が無症候性血尿や無症候性蛋白尿として経過観察されます。血尿単独で異常があった場合、発見後1年間は3カ月毎に検尿を行い、以降も血尿が続く限り、1年に1,2回の検尿を行います。半数は1年以内に消失します。疾患としては、良性家族性血尿, ナットクラッカー現象 (左腎静脈が他の動脈に圧迫されることによる左腎うっ血)が比較的多いです。経過観察中に蛋白尿が出現した場合は、腎炎の可能性があります。

蛋白尿単独で異常のあった場合、体位性蛋白尿や運動, 発熱による一過性の生理的蛋白尿を除外する必要があります。体位性蛋白尿とは、睡眠などで横になっている時にはみられず、起きて立ったり動いたりすると蛋白尿が見られるものをいい、健康な学童の約10%、尿蛋白陽性者の30~40%にみられます。これであれば、腎機能に影響なく、治療は不要です。病的な蛋白尿の原因としては、腎炎や低形成腎・胃形成腎など先天性腎尿路奇形があります。

 血尿・蛋白尿合併は最も重要な異常所見で、約60%が最終診断は慢性腎炎となっております。そのため、小児腎臓病専門施設の受診がのぞましいです。

 検尿で異常所見があった場合、蛋白制限や塩分制限などの食事管理は、腎機能障害が進行していなければ基本的に不要です。運動制限についても、腎疾患に運動制限が有用であるという根拠はなく、基本的に不要です。