以前、「BCGワクチンが新型コロナウイルス感染症に有効な可能性がある」という記事が出され、その影響でBCGワクチンの確保が困難となり、当院でも予約を一時的に中止せざるを得ない状況に陥りました。
はたしてBCGワクチン接種は新型コロナウイルス感染を予防しうるのか?イスラエルでこの疑問に答える研究が行われました。
SARS-CoV-2 Rates in BCG-Vaccinated and Unvaccinated Young Adults.
JAMA. 2020 May 13; doi: 10.1001/jama.2020.8189.
Uri Hamiel, Eran Kozer, Ilan Youngster
イスラエルでは、1982年まではBCGワクチンは公費で行われており、接種率は90%を超えておりました。しかし、1982年以降は結核罹患率の高い地域からの移民に限定されておりました。そこで、その前後の、1979~1981年生まれ (BCGワクチンを受けた人) vs
1983~85年生まれ (BCGワクチンを受けていない人)とで、新型コロナの罹患率を比較しております。
結果は、1979~1981年生まれの人、つまりBCGを接種した人の総人口は 297340人で
そのうち、発熱や咳などがあり検査を受けた人は3064人 (1.02%)で、陽性者は
361人 (11.7%)でした。それに対して、1983~1985年生まれの人、つまりBCG接種を受けていない人は、人口は 301600人でそのうち、発熱や咳などがあり検査を受けた人は2869人 (0.96%)で、陽性者は299人 (10.4%)でした。両群ともICUでの加療が必要な重症例は1例で、死亡例はありませんでした。
(言えること)
同じ地域で比較した大規模な調査という点で価値のある報告です。例えば、BCGワクチン接種をしている日本とBCGを接種していないヨーロッパ地域で比較した場合、マスクの有無、うがいの有無など、医療体制の違いなど、BCG以外の要因も結果に影響する可能性があります。
この研究からは、青年期において、乳児期のBCGワクチンは新型コロナ感染を予防しないといえます。しかし、重症化を抑制する可能性はまだ残されており、今後の検討課題です。
現段階では、BCGは乳児が結核予防のために接種するのが最優先事項といえます。