いよいよカゼ予防シリーズも最終回になりました。今回は、色々な意味で話題になったマスクについてです。
日本ではマスクもうがいと同様に常識となっているかぜ予防策ですが、始めて日本を訪れた外国人は、多くの人がマスクを付けている様子に驚くようです。
2009~2012年に新潟県の佐渡島で行われた、園児, 学童を対象とした、インフルエンザに対する予防行動のアンケート調査では、ワクチンの接種とこまめな手洗いが感染予防に効果があったのに対して、マスク着用では、かえって発症率の増加が見られていました1)。また、前述のミシガン大学の寮生を対象とした研究(手洗いの記事で引用)でも、マスク着用のみでは、インフルエンザ様疾患の発症予防に効果がなく、手洗いとの組み合わせではじめて効果がみられました2)。
これらの結果からでは、マスクの効果はないようにみえますが、家庭内や医療機関など閉鎖され、かつ感染者のいる場所では効果を発揮するようです。
2009年に実施された東海地方の某高等学校生徒を対象としたインフルエンザ感染と予防行動に関するアンケート調査では、全生徒を対象とした場合は、マスク着用はインフルエンザの感染予防に効果はありませんでした3)。しかし、家族のみが感染した生徒に限定すると、家庭内や外出時のマスク着用の頻度が、他の生徒と比較して高いという結果でした。
2011年に北京在住の成人約13,000名を対象としたアンケート調査では、「病院へ行く時のマスク着用」が、「日常的な運動」「適切な手洗い」「タオルやハンカチを共有しない」とともに、インフルエンザ様疾患の感染予防に関連する行動として挙げられていました4)。
以上よりマスクは、状況に応じて使用すればかぜの予防にある程度の意味はありそうですが、アンケート調査が多く、信頼できる研究が少ないのが現状です。
6.まとめ
これまで日常的なカゼ予防手段として、わが国では常識とされている「うがい」「手洗い」「マスク着用」の根拠について述べてきました 。
手洗いは質の高い論文が多く確実に効果があるといえます。うがいは、質の高い論文が少なく、またメカニズムが不明ですが、かぜの予防には効果がありそうです。マスクによるかぜの予防効果はあまり実証されておらず、特に低学年の学童において長時間のマスク着用は現実的ではありません。しかし、時期や場面を選べばある程度の効果はありそうです。
あくまでも私見ですが、児童・生徒の実行性を考えると、学校内では、1) 手洗いは石鹸を用いて, 1日2回, 1回20秒以上, 洗浄後は手をしっかり拭くことを目標とする、2) うがいは1日1-2回水道水で行う, 3) マスクは、インフルエンザなど教室内で同じ症状による欠席者が複数人発生した時に、少なくとも教室内では着用する (今の時期は熱中症の問題もありますしね)ことを目標とするのが現実的と思われます。
参考文献
1.関奈緒, 他. 園児, 学童におけるインフルエンザ予防行動実践状況とその効果. 日児誌
2016; 120: 612-622.
2.Aiello AE, et al. Face masks, hand hygiene and influenzae among young adults: a randomized intervention trial. PLos One 2012; 7 : e29744.
3.加藤綾子, 他.季節性インフルエンザにおけるマスク・うがい・手洗いの予防効果.
INFECTION CONTROL 2011; 20: 99-103.
4.Wu, et al. Hygiene behaviors associated with influenza like illness among adults in Beijing,China: A large, population-based survey. PLos One 2016; 11: e0148448