新しいワクチン~ 就学前・就学後の不活化ポリオワクチンについて

20188に、学童期以降の百日咳とポリオに対する免疫を維持するために、就学前の3種混合(百日咳, ジフテリア, 破傷風)不活化ポリオワクチンの接種が、日本小児科学会より推奨されました。

 

今回はポリオワクチンについて簡単に述べたいと思います。

 

ポリオとは、ポリオウイルス感染によるもので、大部分は無症状ですが、手足に麻痺が出て、重症になれば呼吸筋の麻痺により呼吸ができなくなり死亡するおそれのある病気です。

命が助かっても、麻痺が残る可能性があります。現時点で、治療法はなく、ワクチンが唯一の予防法です。

 わが国では、1960年に全国で5,000名を超えるポリオの大流行をみとめました。その後、翌年より、経口生ポリオワクチン (oral poliovirus vaccine; OPV) 接種が導入され、その効果は絶大で、短期間のうちにポリオ流行を制圧し、再び流行することはありませんでした。しかし、OPVには約440万接種に1例と稀ではあるが、本来弱毒株であるはずのワクチン株が病原性を持ち神経毒性を発揮することにより起こる、ワクチン関連麻痺が問題視されるようになりました。そのため、2012年より、皮下注射による不活化ポリオワクチンに切り替えられました。ポリオは、0~1歳時に計4回の4種混合ワクチン接種により予防しますが、その予防効果は経年的に減弱する可能性があります。4歳以降に追加接種すると、ある程度長期間にわたって免疫を維持できることが示唆されており1)、欧米諸国の多くは4歳以降に追加接種が実施されています。ポリオ患者は、主にアフリカなど政情が不安定な地域で発生しておりますが、2019年に、日本への入国者数の比較的多い、フィリピンで17例の発生が報告されました2)わが国には近年ポリオ患者の報告はありませんが、いつ国内にポリオウイルスが入ってきてもおかしくなく、就学前の接種が任意接種として推奨されました。

 

(2020/6/1追記)

経口ワクチンによる免疫は生涯持続しますが、皮下注射による免疫は経年的に弱くなります。今は、経口ワクチンによる生涯免疫の方が大部分ですが、現行の4種混合スケジュール(0歳の3回+1歳の1回) のみだと、20~30年後にはポリオに対する免疫が弱くなっている方が増えてくる可能性があります。その状況で海外からポリオが持ち込まれると、集団発症するリスクもありえます。こうしたことから小学校入学前の追加接種をいおすすめしております。

 

参考文献

1.Bottiger M. Polio immunity to killed vaccine: an 18-year follow-up. Vaccine 1990; 8: 443

2.WHO. Polio Outbreak in the Philippines – Situation Report 16

https://www.who.int/docs/default-source/wpro---documents/countries/philippines/emergencies/polio/unicef-who-phl-sitrep-16-polio-outbreak-19feb2020.pdf?sfvrsn=c9386320_2