カゼ予防について:手洗い

手洗いについては、質の高いエビデンスがたくさんあり、海外でも、カゼ予防のための日常的な手洗いは推奨されています。

(1) 学童を対象とした研究について

エジプトのカイロで2008年2~5月に行われた研究を紹介します1)。公立小学校60校に通う児童, 約44,000人を対象とし、30校ずつ、手洗いを指導された群 (介入群)手洗いを指導されなかった群 (対照群)の2群に分けられました。介入群は、期間中、学校内で手洗いに関する強化キャンペーンが行われ、さらに少なくとも1日2回の手洗い(石鹸を使用し、45秒間洗い、すすいだ後にきれいなタオルで拭く)が指導されました。それに対して、対照群では、従来通り、学校の手洗い場に石鹸がなく、水洗いした後は、自然乾燥か洋服で拭いておりました。研究開始より、12週間でのインフルエンザ様疾患 (38度以上の発熱に加え、咳嗽あるいは咽頭痛を認めるもの。インフルエンザでないものも含む), 下痢および結膜炎により欠席した児童の割合を比較しています。その結果、介入群 (手洗い群)は対照群と比較し、インフルエン様疾患は40%, 下痢は33%, 結膜炎は67%発症率が低下しておりました。

 

(2) 若年成人を対象とした研究について

2008年1月~3月までミシガン大学の寮を対象に行われた研究を紹介します2)。1188名の学生をランダムに、カゼ予防策として、マスク着用と手洗いをする群 (マ+手群), マスク着用のみをする群 (マ群), 何もしない群 (対照群)の3群に分けました。マスクは1日6時間の着用が指導され、手洗いについては、教育ビデオを視聴のうえ、アルコールを含む消毒液の使用が指導されました。研究開始から1週間毎に計6週間のインフルエンザ様疾患の発症率を比較しています。その結果、マ群は対照群と比較し全期間で発症率に差は見られませんでした。それに対して、(マ+手)群は対照群と比較し、介入開始から3~6週の時期に約50~70%の発症率の低下が見られました。なお、期間中の手洗いの回数は、マ+手群は4.49回/日に対し、マ群1.29回/日, 対照群は1.51回/日でした。

 

(3)手洗いの方法について

まずは、何を使って手を洗うかですが、手洗いに関する研究を統合したメタアナリシスという最も質の高い論文によると、手洗いの教育と通常の石鹸との組み合わせでも効果は十分で、対照群と比較し、消化器感染症は約40%, 呼吸器感染症では約50%の減少が観察されていました3)。塩化ベンザルコニウム含有溶液による手洗いもとても有効で、消化器, 呼吸器感染症がいずれも40%減少しておりました。なお、薬用石鹸 (通常の石鹸+薬用部分)のうち、薬用部分の効果については、否定的でした。

手洗いにかける時間については、3~5歳の保育所児童を対象にとした報告では、手の細菌数は、手洗い時間が5秒では減少していませんでしたが、20秒間で著明に減少しておりました4)手洗い後の乾燥方法についても、この論文で検討されていますが、大人がペーパータオルで拭いた場合が、児童が自分で拭いた場合や熱風消毒器で15秒あるいは30秒乾燥させた場合と比較して、最も除菌効果が得られていました4)

以上より、学校や家庭での日常的な手洗いについては、石鹸を用いて, 20秒間以上, 手をこすり合わせてしっかり洗う, 手洗い後は手を十分に拭くことが効果的といえます。ただし、感染症流行期などで手洗いの回数が頻回となると、手荒れの原因になるので、保湿薬を使用するなどの対策が必要です。

 

(4) まとめ

 手洗いはかぜ予防に効果があるといえますが、その効果を得るには正しい方法で実践する必要があります。実際に、福岡県内の3~5歳の保育園児250人を1年間追跡調査した報告によると、家庭内で1日2回以上手洗いをしている児とほとんどしていない児の間に欠席日数の差はみられませんでした5)。児童・生徒の手洗いが正しくできているか、定期的に確認していくのが大事と思われます。

 

参考文献

1.Talaat, et al. Effects of hand hygiene campaign on incidence of laboratory-confirmed influenzae and absenteeism in schoolchildren, Cairo, Egypt. Emerge Infect Dis 2011; 17:619-625.

2.Aiello AE, et al. Face masks, hand hygiene and influenzae among young adults: a randomized intervention trial. PLos One 2012; 7 : e29744.

3.Aiello AE, et al. Effect of hand hygiene on infectious disease risk in the community setting: a meta-analysis. Am J Public Health 2008; 98: 1372-1381.

4.山本恭子, . 除菌効果からみた保育所児童における有効な手洗い方法の検討. 学校保健研究 2002; 44: 299-308.

5.牟田広実, . 家庭での手洗い習慣は保育園児の感染症による欠席日数を減らすか?. 月刊地域医学 2016; 30: 372-380.