どうする?子宮頸がんワクチン

外来でまれに「子宮頸がんワクチンは接種した方よいですか?」という質問をいただきます。子宮頸がんは産婦人科の疾患なので、当院では接種予定はありませんが、

これに対していつも明確な回答ができないので、簡単にですが、up dateしてみました。

 

ポイントは、

1.子宮頸がんに罹患するリスク

2.ワクチンの効果

3.検診における発見率

4.接種後のひどい頭痛や倦怠感は根拠がないのか

といったところかなと思います。

 

なお、子宮頸がんは婦人科疾患であり、小児科医の私は専門外であること、ご承知おきください。

 

【子宮頸がんとは】

性交渉によりヒトパピローマウイルス (HPV)が、子宮頚部粘膜(子宮の入り口部)へ感染することで発症し、日本では年間2,900人が死亡しております。子宮頚部初期(前がん)病変 (CIN)を経由して、5~10年以上かけて発症する。感染しても多くの場合は無症状下に排除されるが、感染が持続すると一部に子宮頸がんが発生する。HPVには100種類以上の型が知られていますが、その中の13種類が子宮頸がん発症と強い関連がありハイリスク型HPVとされています。特にHPV16型, 18型が高頻度に検出され、ワクチンはこれらをターゲットに開発されました。

 

【子宮頸がん検診について】

細胞診 → 組織診という順に進めます。

細胞診は、子宮頸部を、先にブラシのついた専用の器具で擦って細胞を採り、異常な細胞を顕微鏡で調べる検査です。痛みは少ないです。病変の検出率は約70%です

細胞診の所見は、ASC-US (軽度病変疑い), LSIL (軽度病変), HSIL (高度病変)などと表現され、LSIL以上の場合は、精査が必要です。(ASC-USの場合も6ヶ月後の細胞診の再検査あるいはHPVテスト)

 

細胞診で、「異常あり」の場合は、組織の一部を採取して悪性かどうかを判断します(=組織診)痛みを少し伴い、出血することもあるようです。

組織診の所見は、CIN1 (軽度異形成), CIN2 (中等度異形成), CIN3(高度異形成)の段階があります。CIN1は約60%, CIN2は約40%自然軽快するので、経過観察しますが、CIN3やCIN2が長期間持続する場合は治療となります。

 

その他、HPVテスト (原因となるウイルスを保有しているかどうか、すなわち子宮頚部病変のリスクがあるかどうかを見る)は検出率が約90%で、オーストラリアなどでは、検診で導入されております。

 

【子宮頸がんワクチンについて】

2009 年 グラクソ・スミスクライン社の「サーバリックスⓇ」を承認 (HPV16,HPV18)

2011 7 MSD 社の「ガーダシルⓇ」を承認 (HPV16, HPV18, HPV6, HPV11

2013 4月 小6 ~高1 の少女を対象に定期接種を開始となりました。しかし、CRPS (複合性局所疼痛症候群) とよばれた、手足の難治性疼痛と振るえのために歩行ができない,その結果,不登校になったなどの事例が報告され、そのうち106名が重篤と判断され (接種者は328万人)、同年6月には積極的な接種推奨が中止されました。

 

子宮頸がんワクチンの3 回接種により,CINが90%以上予防できるとされています。

国内でも規模の大きい調査が実施されていて、厚労科研研究で実施された、ワクチンの導入前後の20歳時点での細胞診LSIL (軽度病変)以上の割合は、導入前2.1%→導入後0.58%でした (Ueda Y, 2018)。また、全国16箇所で実施された、20~29歳の検診データによると、細胞診でHSIL (高度病変)以上の割合は、非接種群 0.66% に対して 、接種群 0.2% (Konno R, 2018)でした。

 

【子宮頸がんワクチン接種後の症候群について】

 池田らの報告 (昭和学士会誌, 2018)

信州大を2013~2016年までに受診した163名のうち72名(44%)を、子宮頸がんワクチン接種後の神経障害と診断しています。

初回接種から症状発現までの期間は1 1,532 日(平均319.7 ± 349.3 日)

症状発現から受診までの期間は0 63 か月(平均28.0 ± 15.7 か月)

症状の発現は1 回目接種後が16.7%,2 回目後が29.2%,3 回目後が52.8%であった.

症状としては、下記の症状が見られました。

     1.異様な倦怠感(4 週間以上持続する)

     2.慢性頭痛,特に起立時に増悪する
  3.広範な痛み(移動性の関節痛,四肢の痛み,筋痛)
  4.四肢の振え(振戦様もしくはミオクローヌス様)
  5.自律神経障害(立ちくらみ,体位変換性頻脈,消化管運動異常)
  6.運動障害(突発性の脱力,四肢の麻痺,歩行障害)
  7.感覚障害(四肢の冷感,異常感覚,羞明
  8.睡眠障害(過眠,不眠)
  9.学習障害(記銘力障害,集中力低下,長文の読解不能
 10.月経障害(無月経,過多月経)

客観的所見として、低血圧, 起立試験異常 (仰向けから起立により、血圧低や著明な心拍増加が見られる), 皮膚温の低下, 脳血流の低下,高次脳機能障害が認められました。

発症機序として、アルミニウムの毒性と自己免疫 (本来自分を守るための免疫が、自分自身を攻撃してしまう)、が推定されています。 

予後ですが、四肢の振るえ,運動麻痺は半数以上で改善していた.その結果,初診時には40 ~ 50%の女子学生が外出困難,不登校の状態であったが,こうした状態が17%前後の頻度まで減少していた.しかし、高度な頭痛と全身倦怠感,四肢の疼痛,睡眠障害,月経異常の改善は乏しかった、ようです。

 

荒田らの報告 (神経内科, 2018)

鹿児島大で58例の入院例を対応

子宮頸がんワクチンに関連した自己免疫性脳症と表現

発症年齢は1219歳で、最も多く見られた症状は頭痛

頭痛は慢性的で薬剤抵抗性が多い

70%以上で慢性的な倦怠感, 60%以上で過眠などの睡眠障害

四肢疼痛は1箇所とは限らず、複数の部位にまたがり、疼痛部位の移動や程度の変動がある

検査所見として、MRIや髄液一般検査は正常のため心因性と思われがち

70%以上で大脳に巣状の多発性の血流低下

健常成人では陰性である自己抗体が血清や髄液から検出

 

両者でアプローチは違いますが、特に荒田先生の考えは、小児科医としてしっくりきます。実際にマイコプラズマ感染症に伴う、MRI異常が全くない、自己抗体が関与した脳炎を経験したことがあります。ただ、マイコプラズマなど病原体による場合は、血液検査でその病原体に対する抗体が上昇するので、説明しやすいですが、ワクチンが原因の場合、直接的な因果関係を説明するのが難しいのが現状です。

 

産婦人科の権威ある先生方は、根拠のない、と強くおっしゃっていますが、免疫疾患や神経疾患に接する機会が少ないので、ピンとこないのかなと思います。

 

【まとめ】

1.ワクチン未接種の場合、検診での異常率は、軽度以上が約2%,

 高度以上は約 0.6%

2.ワクチン接種により、高度以上は約0.2%におさえられるが、100%ではない

 (ワクチンの型以外の感染による)

3.現在の検診の細胞診による発見率は70% 

4.ワクチン接種後の持続する頭痛や疼痛は、因果関係の直接的な証明は難しい。正確な頻度は不明であるが、多く見積もっても0.1%以下と思われる。

 

社会全体で考えれば、ワクチンを接種した方がメリットはありますが、個人レベルで考えると。悩んでしまいます。大変心苦しいのですが、現時点では、最初の質問、「子宮頸がんワクチンは接種した方よいですか?」に対して、自信を持って、「接種したほうがよい」あるいは「やめた方が良い」とは、答えられません。

 

今すぐ取り込めることとして、

1.検診にHPVテストを導入する

2.検診をうけやすいシステムを作る(実現可能であれば、自分で採取して郵送など?)

3.ワクチン接種後の神経症状に対して、一定の基準を満たした場合は、救済措置を取ることを明確にする

などが大事かなと思います。

 

私自身、勉強不足なので、適宜更新できればと思います。