太宰治の人間失格の主人公は自閉スペクトラム症?

GW中に、太宰治の「人間失格」のマンガを読んでみました。

これまで人間失格は読んだことがなく、桑田佳祐の「声に出して歌いたい日本文学」にあるフレーズしか知りませんでした。

桑田佳祐 - 声に出して歌いたい日本文学〈Medley〉 | サザンオールスターズ Official Site (southernallstars.jp)

約20分と長いですが、私は桑田さんの曲の中でも好きな曲の1つです。

 

人間失格の内容は以下より  人間失格 - Wikipedia

 小児期の段階で、周囲の人(家族など)が何を考えているのかわからず怖い, それゆえ人とまともに会話ができない, 言い訳や自己弁解ができない, そのため人から嫌われぬよう明るい道化を演じていた・・・と記載があり、そこから主人公は自閉スペクトラム症と思いました。その後は、高等学校に入学するもなじめずに、悪友につかまり、酒・タバコ・女性遊びと現実逃避にのめりこんでしまいます。その後、事件を起こし、高校を放校になり、どんどん落ちていきます。一時的に家庭を持ちますが、幸せは続かず、酒で体調を崩し、モルヒネに手を出し、廃人になってしまいます。後半は、2次障害の最重症の状態を描いていると思いました。読み終わった後、しばらくは心が暗くなってしまいました。

 

人間失格太宰治自身の人生を色濃く反映しているという説もあるようです。もしかしたら太宰治自閉スペクトラム症で生きづらさを感じていたのかもしれない。今の時代なら小学生の段階でアプローチし、自殺は避けられたかもしれません。その一方で、アプローチしたことにより、「走れメロス」など数々の名作は生まれなかったかもしれません。こんなことを考えながらGWを過ごしていました。

 

 

 

自己理解力についての講演を視聴しました

GWの最初の方で、自己理解についてのWeb講演会を視聴しました。講師はNPO法人エジソンクラブ代表の高山恵子先生でした。自己理解し、最終的にはメタ認知(=自分の行動や言動を客観的に振り返る力)ができるようになるのが、社会生活を送るうえで重要になってきます。3時間弱の短い時間でしたが、自己理解を身につけるためのポイントを学びました。小学校高学年以上のお子様に対して、自己理解を深め、発達特性を受容できるようお手伝いできればと思います。また、やりたいことが増えてしまった。計画倒れにならぬよう頑張らなければ😅

連休最終日は電子カルテのシュミレーションでした

GWはどこも遠出せず、イクメン業とブログの更新(大きなタスクであった子宮頸がんについて集中して取り上げることができました)、Webでの勉強で終わってしまいました。看護師のTさんよりお借りした「ベイマックス」「ライオンキング」「アナと雪の女王」のおかげで助かりました。

さて、5/6 (木)は当院で6月より導入開始となる、電子カルテシュミレーションのシュミレーションを行いました。開発への協力を条件に低コストで、念願の電子カルテが導入できます。既にリリースされているものとは違い、作りあげていかないといけませんが・・・。でも、もともと私は開拓者気質なのでおそらく大丈夫。これまで、勤務医時代にも、色々な職種の人と連携しながら、食物経口負荷試験児童虐待委員会をゼロから立ち上げた経験があります。

最初は、不安いっぱいだったスタッフも後半はだいぶ慣れてきた様子です。しばらくは電子カルテ関連で忙しくなりますが、まなべ小児科クリニックが進化し、地域の皆様により良い医療を提供するための第1歩と思うとワクワクします。

子宮頸がんワクチンの説明のための予約枠を作りました

ここまで7回にわたり、子宮頸がんとワクチンの話をしてきました。

接種にあたり、本人・保護者ともに、接種する意義 (子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルスの感染予防)や接種後の副反応についてしっかり理解していただいたうえで、検討していただく必要があると思います。

私としては、本人が大人になってから自分で判断する、というのも、選択肢としてはありだと思います。しかし、ワクチンは初交前の接種が最も意義があることと、自費接種となり高額の自己負担 (当院では、3回の接種で4価ワクチンは48,000円, 9価ワクチンは78,000円) となってしまう、という2つの問題があります。

電話で時々相談があるようですが、それだけでは、疑問のすべてにお答えするのは難しいですし、このワクチン接種は保護者と医院だけで話を進めてはいけないと思います。

そこで、子宮頸がんワクチンの説明のための外来予約枠を土曜日の午後に設けることとしました。最初に、看護師が説明し、その後、私が医学的な質問についてお受けする形で考えております。

市から予診票が届いたけど、接種する?接種しない?で迷っている方、ぜひ、電話でご予約ください。

 

子宮頸がんワクチン接種後の副反応について

今日は、保護者の皆様が一番気になるワクチンの副反応についてお話ししていきたいと思います。

まずは一般的な副反応について

サーバリックスRの国内臨床試験では、局所 (接種部位) の副反応として、疼痛 (99%), 発赤 (88.2%), 腫脹 (78.8%) で、全身性の副反応としては、疲労 (57.7%), 発熱 (5.6%), 筋痛 (45.3%), 頭痛 (37.9%), 胃腸症状 (24.7%), 関節痛(20.3%), 蕁麻疹 (2.6%)が認められています。

サーバリックスの基本情報(薬効分類・副作用・添付文書など)|日経メディカル処方薬事典

ガーダシルR国内臨床試験では、局所 (接種部位) の副反応として、疼痛 (82.7%), 紅斑 (32%), 腫脹 (28.3%) で、全身性の副反応としては、主なものとして発熱 (5.7%), 頭痛 (3.7%)が認められています。

医療用医薬品 : ガーダシル (ガーダシル水性懸濁筋注シリンジ)

2015年9月の検討部会では、接種された338万人 (約890万回接種) のうち、副反応疑いの報告があったのは2,584人 (0.08%) でした。そのうち、その後の経過が把握できた1,736人のうち、7日以内の回復は974人 (56.1%)で、最終的に回復軽快し通院不要となつたのは1,550人 (89.1%)という追加追跡調査結果が示されました。副反応追跡調査結果について|厚生労働省

さて、厚労省の積極的な接種勧奨の一時中止のきっかけとなった、持続的な疼痛と運動障害をみとめたケースについてです。副反応検討部会では、広汎な疼痛と運動障害をみとめた例について、1) 神経学的疾患, 2)中毒, 3) 免疫反応, 4)心身の反応の4つが仮説として考えられましたが、検討の結果、1)~3)は否定的で、針を刺した痛みをきっかけに心身の反応が現れ、色々な条件のもとで、これらの症状が慢性化したことが妥当とされました (転換症状・機能性身体症状)

(岡部信彦.どうするHPVワクチン:私の意見・提言. 外来小児科 2019. 22 (1); 66-70)

一部の研究者より、免疫異常が生じていることが報告されておりますが、いまだ仮説の域を出ません。海外で約400万人規模の調査で、HPVワクチン接種と自己免疫が関与する、多発性硬化症脱髄性疾患との相関は認められなかったと報告されています。

(Scheller NM, et al, Quadrivalent HPV vaccination and risk of multiple sclerosis and other demyelinating diseases of the central nervous system. JAMA. 2015 Jan 6;313(1):54-61.)

なお、最近WHOでは、ITSR (Immunization Triggered Stress Response) という、ワクチン接種をきっかけとしたストレス反応という概念について議論されています。ワクチン接種前後に生ずる不安・恐れをきっかけに生ずる一連の痛み、恐怖症、身体変化などで、周辺や社会的環境の影響を受けやすく、それをふせぐためには丁寧な説明・接種が必要とされています。

 

子宮頸がんワクチンを接種していない場合にも疼痛や運動障害など多様な症状を認めることがあります名古屋市で実施された疫学調査によると、ワクチン接種により、痛みや運動障害, 睡眠障害など24項目の症状が増加していないことが明らかになりました。

アンケート調査なので、記憶バイアス (記憶に基づくので正確性が落ちる)などの限界点はありますが、非接種者でも

多様な症状を認めうる点が重要です。

(Suzuki S, et al.No association between HPV vaccine and reported post-vaccination symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoya study. Papillomavirus Res. 2018 Jun;5:96-103)

また、厚労省の研究班の全国疫学調査によると、HPVワクチンを接種後に生じたとされる症状と同様の多様な症状を呈するものは、12~18歳女子では、人口10万人あたり40.3人と推計されました。そのうち、HPVワクチン接種歴のない女子においても、人口10万人あたり20.4人と推計され、HPVワクチン接種歴がなくても多様な症状を呈するものが一定数存在することを示されました。この調査結果より、HPVワクチン接種と接種後に生じた症状との因果関係は言及できないと結論されています。

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000161352.pdf

 

まとめ

・HPVワクチン接種後は、大部分が、接種部位の疼痛や腫脹をみとめます

・接種者のうち、副反応として報告されたのは(因果関係の不明なものを含む)

0.08% (1,250人に1人)で、そのうち半数強は7日内に回復し、90%が最終的には回復し  ています。

・慢性的な疼痛や運動障害の要因としては心身の反応が最も考えられています。

・HPVワクチンを接種していない場合でも、HPVワクチンを接種後に生じたとされる症   状と同様の多様な症状を認める場合があります。

 

 

 

 

子宮頸がんワクチンの効果~日本からの報告

 今日は、わが国における、子宮頸がんワクチンによるヒトパピローマウイルス (HPV) の予防効果を調べた研究を紹介させていただきます。

研究の紹介の前に、まずは子宮頸がん検診で行う検査についてお話しします。それを理解した方が、ワクチンの効果がより理解しやすくなるからです。前置きが長くなりますが、よかったらお付き合いください。

 

【子宮頸がん検診で行う検査について】

一般的に、細胞診 → 細胞診で所見があれば 組織診という順に進めます。

細胞診、子宮頸部を、先にブラシのついた専用の器具で擦って細胞を採り、異常な細胞を顕微鏡で調べる検査です。痛みは少ないです。病変の検出率は約70%です

細胞診の所見は、ASC-US (軽度病変疑い), LSIL (軽度病変), HSIL (高度病変)などと表現され、LSIL以上の場合は、精査が必要です。

(ASC-USの場合も6ヶ月後の細胞診の再検査が必要)

 

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(https://tsurukawadai-lp.jp/より引用


細胞診で、「異常あり」の場合は、組織の一部を採取して悪性かどうかを判断します(=組織診)痛みを少し伴い、出血することもあるようです。

組織診の所見はCIN1 (軽度異形成), CIN2 (中等度異形成), CIN3(高度異形成)の段階があります。CIN1は約60%, CIN2は約40%自然軽快するので、経過観察しますが、CIN3やCIN2が長期間持続する場合は治療となります。

 

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https://tsurukawadai-lp.jp/より引用

その他、HPVテスト (原因となるウイルスを保有しているかどうか、すなわち子宮頚部病変のリスクがあるかどうかを見る)は検出率が約90%で、オーストラリアなどでは、検診で導入されております。

【HPV感染の予防効果を調べた研究】

NIIGATA STUDY  

(Kudo R, et al, Bivalent Human Papillomavirus Vaccine Effectiveness in a Japanese Population: High Vaccine-Type-Specific Effectiveness and Evidence of Cross-Protection, 

J Infect Dis  2019 Jan 9;219(3):382-390.)

研究の概要

新潟県における子宮頸がん検診受診者を対象

・HPV感染, 細胞診異常, 組織診異常の減少効果を検証

自治体の接種記録より、ワクチン接種群と非接種群を把握し、両群を比較

・対象者の性的活動性(初回性交年齢, 性交経験人数)も調査

研究の結果

全体HPV16/18の感染率接種者0.2%に対し、非接種者2.2%

            (91.9%の感染予防効果)

初交前に接種した場合:HPV16/18の感染率は0.1%で、ワクチンの有効率は93.9%まで上昇しました。さらに。HPV31/45/52型 (ワクチンでカバーされない型)への感染率は1.3%で、非接種群4.6%に対し、68%の感染予防効果をみとめました。

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初交前にワクチンを接種した場合の予防効果

 【細胞診異常の予防効果を調べた研究】

1.宮城県での報告

子宮頸がん検診を診した20~24歳の細胞診異常の結果について、ワクチン接種群と非接種群で比較した、HSIL以上の細胞診異常 (高度病変) は、接種群0.3%に対し、接種群0.82%で、ワクチンにより63%のリスク低減効果を認めました。

(Ozawa N, et al. Beneficial Effects of Human Papillomavirus Vaccine for Prevention of Cervical Abnormalities in Miyagi, Japan. ohoku J Exp Med. 2016 Oct;240(2):147-151.)

2.秋田県での報告

子宮頸がん検診を診した20~24歳の細胞診異常の結果について、ワクチン接種群と非接種群で比較した、ASCUS以上の細胞診異常 (軽度の変化以上) は、接種群0.24%に対し、接種群2.04%で、ワクチンにより88.1%のリスク低減効果を認めました。

(Ozawa N, et al, Preventive effect of human papillomavirus vaccination on the development of uterine cervical lesions in young Japanese women. J Obstet Gynaecol Res
. 2017 Oct;43(10):1597-1601)

 

組織診異常の予防効果を調べた研究】

全国16か所の20~29歳の子宮頸がん検診のデータを用いたHPVワクチンの有効性の検討。CIN2以上の病変接種群0.66%に対し、接種群0.2%で、ワクチンにより69%のリスク予防効果を認めました。

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(Konno R, Effectiveness of HPV vaccination against high grade cervical lesions in Japan)

子宮頸がん撲滅に向けたオーストラリアの取り組みの紹介

今回は、先進国の中でも他国に先駆けて子宮頸がん対策に取り組んできたオーストラリアの取り組みを紹介したいと思います。

 

・取り組んでいる事

1) 2013年より4価ワクチンの接種に対象者を男子にも拡大

→現在、12~13歳の男女に定期接種として学校で接種

2) 2007~2009年に13~26歳の女性へのキャッチアップ接種が無料で行われました

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オーストラリアと日本の比較 (山田正興.HPVワクチン接種再開に向けて, 東京小児科医会会報 2020; 39 (1); 22-26より引用)

・成果

1) 14~15歳の接種率は80% (2017年)

2) 4価のワクチンに含まれるHPV6/11/16/18型の感染率は、ワクチンプログラム導入前と比較して、全体で78%減少、ワクチン3回接種群で93%減少, ワクチン非接種群で35%減少。なお、非接種者でも減少したのは、他の人がHPVへの免疫がついたことによる感染リスクの減少によると考えられます。

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萩原温久, 東京小児科医会会報 2020; 39 (1); 27-31より引用

(Tabrizi SN, et al. Assessment of herd immunity and cross-protection after a human papillomavirus vaccination programme in Australia: a repeat cross-sectional study. Lancet Infect Dis. 2014 Oct;14(10):958-66.)

 

・今後の展望

オーストラリアは2028年までに、子宮頸がんと診断される女性は, WHOの撲滅の基準である、女性10万人あたり4例まで減少すると試算しています。